主治医との相性の良し悪しは、実際ある
今通っているメンタルクリニックは、通院がおっくうに感じることもほとんどないし、受診後に気分が落ち込むようなこともない。何より通院を始めたころと今では、比べ物にならないくらい良くなっていると感じる。自分と合う主治医に出会えてよかったと思う。
そこには、会社の産業医→会社と提携している大学病院→クリニックのルートで辿り着いた。強迫性障害を発症した転勤先から東京に戻ってきたあと、通える精神科病院のあてもないので、まずは産業医から病院を紹介してもらった。
ちなみに、東京では産業医と直接面談をせず、メールで病院を紹介してもらっただけだった。
すでに半年間メンタルクリニックに通院していた私は、転勤先から東京に戻るにあたり、そのときの主治医にいわば宛先なしの紹介状として私の状態と経過を詳しく書面にしてもらい、それをもとに産業医に東京の大学病院に繋いでもらった。精神科はただでさえ予約が取りにくいから、大学病院を紹介してもらえたのはありがたかった。
産業医から紹介を受けた大学病院では、それまで通院していたクリニックとは違い、血液検査と一般的な問診票に加え、色々と過去の経験について問う細かい質問票に答えていった。それから診察を受け、私はこれまでの経緯と現在の状態を詳しく説明し、大学病院の先生は私の話を親身に聞いてくれた。そこでも強迫性障害と診断を受けたものの、問題は、その大学病院が平日の夕方までしか受診できないことだった。当時は3週間おきに通院していて、そのペースで有休なり半休なりを取ることはもちろん会社のルール的にできるけれど、チームの状況と異動したばかりということを考えると、3週間に一度休みを取ることに自分の気持ちの折り合いをつけるのが難しいと私は判断した。
そこで、大学病院から土曜日も受診できるクリニックを紹介してもらうことになった。小さなメンタルクリニックで、基本的には院長先生にかかることになるのだが、そこは大学病院と連携もしているクリニックで、院長先生のほかに、大学の先生が決まった曜日の決まった時間にそこで診察をしている。
大学病院からの紹介で初めてそのクリニックを受診したときには、最初に通院していた病院から書いてもらったものと、1回だけ受診した大学病院で書いてもらったもの、2つの紹介状を持参した。今回は血液検査はなく、大学病院のときとは別の、時間制限付きのテスト的なものを受けた。ここでも強迫性障害と診断されたが、テストの結果から鬱病一歩手前の状態であるとも告げられた。このとき診察を受けたのはたまたま紹介元の大学病院の先生だったのだが、この時点で私はまだそのことを知らなかった。
先生は大学病院のときと同じように丁寧に話を聞いてくれた。その時の私は、引っ越しと新しい部署での仕事の疲れと、薬を飲まなければいけないのに通院先がなかなか決まらない不安で相当エネルギーを消耗していていたらしく、涙を流しながらなんとかテストと診察を受けた。そんな状態のため、順調に通院を続けられるかは分からなかったが、とにかく2回目の診察予約をして、その日は終わった。
問題は2回目の通院で、曜日的に今回は院長先生の診察を受けることになった。1回目の受診ときの先生の雰囲気とはまるで違い、私は衝撃を受けてしまった。先生が変わったので、私は改めてこれまでの経緯と現在の状況を説明するとともに、ここではどのような治療になるのかを知りたかったので、以前の通院先では保険診療でカウンセリングを受けていたことも話した。すると院長先生は「カウンセリングなんて意味ないよ」と、私をものすごく突き放すような口調で言った。私が希望してそういった治療をしていたわけでもないのに、まるで私が悪いと言われているように感じて、今度は理不尽さと恐怖に涙が出た。
理不尽には抵抗し、恐怖からは逃げなければならないと、強迫性障害を発症した原因を考える中で決意していた私は、院長先生の話し方が怖くてここで治療は受けられないと、涙ながらに伝えた。これで嫌な病院には通わなくて済むということと、また通院先を探さなくてはいけないなぁということを同時に思った。
院長先生は最初困惑した様子だったが、思いがけない提案を受けた。1回目の受診で診察を受けた先生の治療を受けられるなら、そうしてはどうかということだった。その先生は週1回だけの担当だが、夕方の予約も可能だったので、3週間に一度、仕事を早上がりして通院することにした。それが今の主治医だ。
最初に通ったメンタルクリニックは、私にとって初めての精神科への通院で、精神科がどんなところかを全く知らない私は、とにかく言われた通りにするしかなかった。
そこでの主治医は物腰が柔らかく、時間をかけて話を聞いてくれたが、あまり私の話すことに共感はしていない様子で、なんとなく内心では私の主張を否定しているような気さえした。
実は産業医に病院を紹介してもらうにあたり、この先生が書いた紹介状を開封してメールで送る必要があり、つい中身を読んだ私は憤慨した。そこには強迫性障害の原因が私の生い立ちにあるという見立てが書かれていたが、私はその考えに納得していない。
また、週1回保険診療でカウンセリングが受けられることには精神科への通院経験がなくても驚いたし、最初はありがたいと思ったが、カウンセリングによって自分の過去をほじくり返される認知行動療法はかなりの苦痛を伴った。カウンセリングのあとには必ず泣き疲れてしまっているような有様だったが、苦痛の先に改善があると期待したものの、結果として症状はよくなっていかなかった。だから、今通っているクリニックの院長先生が言っていたこと自体は間違っていないと思う。
今の主治医は、一言で言えば「患者本人の”治る力”を妨げるものが今の生活にないかをチェックして、問題があればそれを取り除く方法を一緒に考える」スタイルで、これが私には合っていると感じる。私は治りたいと強く思っているし、私が最近の生活について話したとき、先生が「自分で考えて工夫してるんですね」と言ってくれることが励みになっている。
今の私は、自分の治る力を信じることができている。