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チロルアルプス オーストリア・インスブルック/ツークシュピッツェ

アルプスといえば、モンブラン、マッターホルン、アイガーあたりのスイス南西部のことと思われがちだが、本当は、ずっと東のオーストリア・ザルツブルクあたりまで伸びている。

日本でもなんとなく耳慣れた「チロル」も、このアルプスの一部だ。(ちなみに、耳慣れているのはチロルチョコのおかげだと思う。)

チロルは、オーストリアの西部、スイスやドイツとの国境付近のアルプスを言う。
そこにはドイツとオーストリアにまたがるツークシュピッツェ(Zugspitze)があり、ふもとには綺麗な高原が広がっている。スイスアルプスに比べると標高は低めだが(ツークシュピッツェは標高2962m)、そのおかげでまた違った景色が楽しめる。

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チロルの中心都市はインスブルックだ。
オーストリア5番目の都市だが、空気は山奥みたいに美味しい。インスブルック(Innsbruck)はインの橋(Inns Brücke)という意味らしく、なるほどその名の通り、旧市街の真横にはイン川が流れ、存在感がある。川の水は乳白色で、アルプスの雪解け水が流れてきているのが分かる。

イン川


旧市街の手前の縦長の広場のような大通りはマリア・テレジア通りという。彼女はインスブルックの王宮を豪華に改装するなど、通りの名前になるほどこの地にゆかりがあった。
歩行者天国の石畳の上には、カフェやレストランの外座席が無造作に広がっている。イベントでもやっているのか、真ん中には特設のステージができていて、チベットかどこかの音楽をやっていた。

マリア・テレジア通り


インスブルックの街はどこを歩いても遠くにアルプスが見えて、山とともに生きる場所であることを感じる。

真っすぐな通りを進んで、旧市街に入ると道は途端に細く入り組む。その中にある観光名所の一つ・黄金の小屋根は思っていたよりずいぶん小さかった。きらきらした金色の屋根は街並みに溶け込んでいる。雄大なアルプスのふもとでは、皇帝ゆかりの物でさえ、自然のなかの人の営みの一つでしかないようだ。

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お昼ご飯は名物料理のTiroler Gröstlにした。ゆでたジャガイモと肉を、玉ねぎと一緒にバターでいためたものだ。目玉焼きが上に載って、その上に小葱が散らされている。
もともとは日曜に焼いた肉の残りを月曜にリメイクして食べていたことが由来だというが、これならリメイクでもごちそうだっただろう。

それから、緑のはっぱと酢漬けじゃがいものサラダが美味しい。
緑の野菜はNüsslisalatという、日本だと見ない野菜だ(日本語ではノヂシャと言うらしい)。葉っぱがつるっとしっかりしていてかさがあるが、酢漬けじゃがいもの酸っぱさに絶妙に合って、いくらでも食べれそうな気がしてくる(実際はじゃがいものかさがあって食べても食べても減らないけれど)。
 
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チロル・アルプスの有名な山、ツークシュピッツェはドイツ最高峰だが、国境にあるのでオーストリア側からも登ることができる。
 
4月、まだ雪は解けていなくて、てっぺんは真っ白だ。展望台から見渡すと、アルプス山脈の各峰が、眼下に白い波みたいにどこまでも広がっていた。空気が澄んで、見えるときはイタリアのほうまで見えるらしい。

真っ白な山々がどこまでも続いている

 
展望台のすぐ横、十字架が刺さっている岩の塊が山の頂上だ。そこに行くには、自ら岩肌を登って行く必要がある。用意された道はない。我こそはと言う登山に慣れた人たちだけが、しっかりした登山装備を引っ提げて登って行くところだ。

私にはそんな技術はないので、写真だけ取って遠くから眺める。と、ちょうど勇気ある5人組が下から一歩ずつ登って来るのが見えた。これはぜひ、登頂の瞬間が見たい。周りの人たちも固唾をのんで見守っている。

見てるだけで怖い


玄人にとっても難しいところなのか、残り少しの距離に随分と時間がかかっていた。ちょうど展望台には、頂上が見えるところにカフェがある。私もみんなもカフェに移動して、コーヒーを飲みながら見守る。

挑戦者はしばらく足元を確認したりロープを取り出したりしていたが、結局登ることができずに帰って行ってしまった。見ていたみんなも、ちょうどコーヒーがなくなったらしくカフェを出ていく。なんにせよ無事でよかったと思いながら、私は勝手に一幕のスリルを堪能して、満足して山を下りた。

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