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湖に浮かぶお城 スイス・シヨン城

天国みたいな空色に、薄く霧かかった遠くの高い山々。
そんな美しい湖畔にたたずむ、中世のお城が、シヨン城(Château de Chillon)だ。

城からの眺め。加工なしでこの美しさ


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シヨン城は、スイスの西端にあるレマン湖(Lac Léman)のほとりに、つきだすようにぽつりと立っている。ジュネーブからは1時間30分、チューリヒからは3時間くらい。どちらの場合もモントルーまで電車で行って、そこからバスに乗って行く。

湖に浮かんでいることで有名な、その幻想的なお城は、意外にも大きな道路に接するようにして立っていた。バス停も近く人気な観光地なおかげで、観光客もたくさん来ている。入口にはカフェやお土産屋もあって、ちょっとした人だかりになっていた。

外観


着いたら、中に入る前に外側を散策してみる。

水面は、覗き込むまでもなく透き通っていた。空の涼しい水色と、水底の薄黄色が溶けあって、綺麗なエメラルドのグラデーションになっている。
レマン湖はジュネーブと言うスイス第二の都市がほとりにあるのに、まるで生活排水からは無縁みたいだ。近くの遊歩道では、浜に降りて水着で遊んでいる人たちもいる。

綺麗なグラデーション

ドイツ語の先生が言っていたけれど(別の川の話だけど)、スイスは国際河川ライン川の上流にあり、一時期川の汚さを下流の他国に指摘されて揉めたこともあったらしい。
廃水処理の技術発展により今は綺麗になって、カワウソたちも戻ってきたのだとか。スイスの美しい水は、スイスの人の努力の上に成り立っているのだなあとしみじみ思う。

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お城に入ってみると、入口近くは中庭のように開けていて、ちょっとした町みたいな雰囲気になっていた。

入口

回廊や屋根には木が使われていて、そこがかわいい。ゼラニウムみたいな花の鮮やかな赤色が、緑と茶色によく映えている。

石と木材と緑の組み合わせ、かわいい

アーチをくぐって入って行くと、内部はどうやらかなり広いようだ。
複雑に回廊が入り組んで、次から次へと部屋が現れるので、今自分がどこにいるのかよくわからなくなってくる。

エッシャーの無限回廊みたい

内部では歴史の展示がされていた。昔のままの壁画が残っていたり、色々な時代の家具を並べた展示もある。お城の中には石造りの礼拝堂もあって、当時の生活のはしっこが見て取れた。

壁画

装飾が豪華というのではないが、各部屋ごとに違うデザインの扉があったり、シンプルながらも心惹かれる雰囲気のものがたくさんある。

色合いが好きすぎる扉

シヨン城は、初めにできたのは12世紀半ばから13世紀のころらしい。当時の人たちは、ここでどうやって過ごしていたのだろう。レマン湖のほとりは今はとても美しいけれど、今よりずっと土木技術もなかっただろう当時、嵐の日にここで一日過ごせと言われたら少し怖い気がする。

石のお城は窓が小さくて外が見えにくいし、石壁をくりぬいたような階段はロマンがあるけど、夜に歩くと怖いだろう。お城に住むというのも楽ではなさそうだ。

手すりのアイアンがかわいい


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地下に降りていくと、雰囲気ががらりと変わる。無機質で、ごつごつとした岩がむき出しになって、少なくとも人が住めそうな感じではない。倉庫かただの土台部分なのかと思いきや、昔地下牢として使われていた時期もあったとか。
ひんやりとしたここに、ずっと日にも当たらず閉じ込められていなければならないと思うとぞっとする。今はただ美しく静かな城も、過去には政争や戦の舞台であったということをあらためて感じた。

バイロンの「シヨンの囚人」のモデルになったとか


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順路の途中には、他の階よりも一段高くなった塔のようなところがある。窓にはガラスも格子もはまっていないので、そこからは直接周りの景色をみることができる。

風を感じる

石壁がフレームになって、写真もいい塩梅だ。
涼しい風に、きらめく水面。高いところから見ると、湖も森も町も、地上から見た時とはまた違う色をしている。

ずっとこの景色を独り占めしていたくなるけれど、城主でもない私は当然帰らなければならない。
でも、長い歴史の中で、一瞬でも訪問者になれたなら、なんだかそれはとても素敵なことに思えた。


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