勉強しなかった人が大学受験に落ちた話



大学に落ちた。



遡ること2年ほど前、在学している某進学校では高校2年生に入る段階で進路を考え始めるのが一般的だ。周りは、早慶上智、東大や一橋、医学部などを目指す者が大半。もちろん進学せずに就職という手もあるが、世間一般ではでは大学を卒業した方が安定できると思い、即就職は眼中になかった。また、格別勉強が苦痛というわけでもなかった。そしてここから私の進路選択の苦労が始まった。

第一関門は文理分けだった。私の学校は文理が半分半分くらいであり、しかも、私は得意科目で文理を分けられるほど成績が偏っていなかった。特筆してやりたいこともなかった。数学が苦手ではなかったが理系は専門性が高くてやめた。

第二関門は学部系統分けだ。文系の中で消去法で残ったのが、社会系。経営も経済も商学も興味がない。だが、どこの大学の社会学を見ても興味も湧かない。やたら頻繁に届く分厚い大学雑誌の中の「これが学びたくてこの学部に入りました」というある大学の在学生がとても羨ましかった。先生や親は「この歳でやりたいことが決められる人はいないよ」と私を励ますように言った。それが頭ではわかっていても、やりたいことが決まらない自分にイラついた。モチベーションもなかった。他人には言えない辛さだった。また、伝えたとしても、現実逃避しているとしか捉えられなかった。

最終関門は大学決め。金銭的余裕はないため、国公立第一志望というのは決まっていた。だが、初めは社会学といえば一橋、と考えていたが、モチベーションがなく不安になり志望校を変えた。私のように中堅国公立第一志望で私大はGMARCHという人間は学校の中では希少だった。ただ、本当に大学に興味がなかった。やりたいこともないのにどうして大学に行くのか理解できなかった。働くため、生きるため、いくらでも理由は思いついた。でも、それらは自分を説得する材料にはならなかった。こんな人間が受かるとも思えなかった。全国模試で、志望校の番号のマークを記入する時、自分の心を殺している気分だった。こんなことがやりたいわけじゃないのに。こんなふうに周りと同じことをしたくて勉強してるんじゃないのに。

高校3年生になり、忙しい日々が始まった。毎日勉強勉強勉強。この頃から私はあまり勉強しなくなった。学校ではホームルームで大学受験の説明を何度もされた。まるでテレビの通販番組を見ている気分だった。

高校3年生ともなると、周りは当たり前のように塾に行っていた。私は塾が嫌いだった。塾にいるとストレスで腹痛がひどくなった。もともとあった自傷行為も悪化した。人とも話したくなかった。自分とは違い、やる気に満ち溢れている周りが怖かった。塾に通っているときは、夜遅くまで自習室にいて、11時の誰もいないホームでクリープハイプの二九、三十を聴きながら1人で泣いた。ここで漫画のように、苦しいけど頑張ろうと思えたらどんなに幸せだろうか。私はそうは思えなかった。何のために勉強しているのかわからないし、そんなに勉強してない。そんな中でも、「◯◯高校なんですか!進学校じゃないですか!すごいですね」という塾講師の言葉が私を苦しめた。優越感と、優越感を感じている自分への拒否感、劣等感のジレンマだ。苦しかった。

そんな中で、私の支えになったのが、友人達だ。とても優しく、悩みも共有できる。友人達が大好きだった。彼らと話しているときだけ、私は悩み多き「受験生」でいられる。全然模試の判定が上がらないただの「受験生」でいられた。だが、帰宅して反動で虚無になった。部屋で泣いた。何のためにこんなことをしているんだろう。辛かった。帰って机に向かうことはほぼなかったが、共働きの両親が帰宅した時は机に向かって教科書を開き、「おかえり」と明るく言った。人はこんなにも簡単に嘘がつけるのだ。

そんなふうにして迎えた12月。もう共通テストの勉強を始める時期に入っていた。パック問題集も買って、そろそろ勉強しないとまずい、と思っていた。大学受験で大学決まる、将来も決まるかも、勉強しなきゃいけないな、と思っていた。頭では。

1月15日の朝、私の部屋には未開封のパック問題集5教科7科目が積み上がっていた。

結果はボロボロ。目標としていた8割越えには到底及ばなかった。だろうな、勉強してないし。自己採点しながら不思議なほど感情が動かなかった。なのに、新聞紙の共通テスト解答ページには涙が溢れた。理由は分からない。私大の共通テスト利用も全落ちだろうなと思っていた。実際そうだった。何もかもどうでもよかった。

そこから何となく、新品同然の私大の赤本を開いた。5校分を3年分解いた。久しぶりに勉強した気がした。直しをしながら、もしかしたら受かるかも、という淡い期待が浮かんできた。会場入りしても、どこか心に余裕があった。手応えもそこそこあった。

私大が終わった後、webで伝えられたのは一校を除き、不合格通知だけだった。親は気にしていない風に装っていたが、せっかく進学校に入れたのにこの結果か…という残念がる内心が透けて見えた。私はというと、内心まぁそうだろうなと思ったふりをしながら、さらにその内心ではショックだった。同時に幽体離脱している気分だった。何をみても心が動かなかった。他人のことのように思えた。ギリギリ合格した一校の公式紹介動画を見ながら、なぜか涙が止まらなかった。結局今日まで自分がしてきたことはなんだったんだろう。いや、今日まで何もしてこなかった自分はなんだったんだろう。何より、これまで大学なんてどうでもいいと思ってきたのに、一校だけ受かって安心している自分に寒気がした。浪人はモチベーションもないし、はなから考えていなかった。私の未来に何があるんだろう。就活とかどうなるんだろう。もう、全部どうでもいい。死にたい。死にたいとか軽くいう自分も嫌い。でも、国公立の勉強しなきゃ。このぐちゃぐちゃの気持ちは、他人にぶつけたくないし、他人を傷つけたくもない。

そうだ、ネットに書こう。そう思って久しぶりにnoteを開いた。そして今に至る。

読んでくれてありがとうございました。


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