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私が魔法少女になった日のこと
友人に子供が生まれたので会いに行った帰り。
「見送りがてら、お散歩行こうね」と友人が赤ちゃんに服を着せる。
もこもこで、フードに三角の飾りがついているボアコート。
フードを被せられた赤ちゃんは、あっという間に恐竜になってしまった。
「いや〜可愛すぎる!!恐竜さんになっちゃったねえ!」と中々気持ちの悪い声が出てしまったが、恐竜に扮したふわふわの赤ちゃんを前にして果たしてどれだけの人がまともでいられるだろうか。
同時に、「恐竜さんになっちゃったねえ」という自分の発言で、私は私が魔法少女になった日のことを思い出していた。
両親が共働きだった私は幼少期は母方の祖母の家に預けられることが多かった。
当時私が興味津々だったのはキラキラと宝石が輝くジュエリー。
宝石店のチラシを見ては「これが欲しい」とねだる私に、祖母はハサミとお菓子の空き箱を渡して、「欲しいものは切り取ってこの箱に入れるんや。大好きが詰まった宝箱ができるんやで」と言った。
その日からチラシにジュエリーを見つけてはチョキチョキとハサミで切り取り、「宝箱」に入れるのが楽しみになった。
ある時、目に留まったのは、宝石店ではなく玩具屋さんのチラシ。
白い羽根が生えたデザインのピンクのリュックに目が釘付けになった。
「カードキャプターさくら」のグッズで、そのリュックを背負えば主人公の魔法少女気分が味わえる、というもの。
珍しくジュエリーではなく、そのリュックを切り取って宝箱に入れることにした。
数日後、宝箱の中身を「これはここがキラキラしてて可愛くて、こっちは…」と祖母に紹介していると、祖母が「これなら作れるで」と例の羽根が生えたリュックを指して言った。
その時初めて祖母が元々洋裁店を営んでいたことを知った。
完成したリュックは素材こそ本物とは違うものの、ボリューミーな羽根がついていて、まさに憧れのリュックそのもの。
背負うとまるで背中に羽根が生えたみたい。
あの日、私は魔法少女になったのだ。
私は今も、チラシを切り取って宝箱に入れるみたいに、ネットで見つけた憧れの着こなしをフォルダに入れている。
あの日もらったリュックのように、憧れを少しずつクローゼットに蓄えて。
さて、明日の私は何になろうか?
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