創作はうつー 描写編

 蝉の声は遠くになり始め、耳を澄ますと鈴虫の声が主張する。汗の不快感を忘れるために耳に集中するもそこにあるのは夏ばかりだ。
「本に垂らすなよ、絶対にだ」
 神経質な声と本の持ち主はこの暑さの中も平然とした顔でやたらと分厚い本を捲っている。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11999165

 いきなりなんだ、と思う方も多いでしょう。
 ハウツーを名乗りながら漫談ばかりは如何なものかと思いまして、今回は駆け足で進めます。

 上のは私の「夏と本と虫」という作品の冒頭です。まずここで起きてることをざっくばらんに説明しましょう。

 1文目、これは時節、空間の描写です。今から書かれる話が何処で起きるものなのか、それを大枠で表現したものですね。
 2文目、それに対しての主人公の感想です。今の主人公の機嫌と、1文目の強調として差し込まれています。
 3文目、第三者のセリフになります。これ単体であれば主人公のセリフでは?と勘違いされかねないですが、2文目で主人公のが耳に集中していると入れ込み、「自ら発声しないだろう」「次は誰かの声が入るのだろう」という予想をさせています。

 4文目、発声者の説明です。前にないのだから後にある、そのくらいの認識で問題ないです。 


 いやそんな解説されてもわかんねえよ、という方のが多いと思いでしょうね。そういう方向けのハウツーですし。

 まず描写というのは、空間の表現です。

  ここで勘違いして欲しくないのは、空間というのは物質的な意味だけではないことです。いや別になら霊的な話だってわけではなくて。

 先の説明を思い返してみてください。

 そこにあるのは「音」「温度」「感覚」「動作」の4つです。
「部屋がどういう造りなのか」「どんな家具があるのか」「どんな体勢でいるのか」なんかの物質的要素は何も無い。

 あの話において、主人公の視点から見たそれらの優先度は限りなく低かったんです。
 詳しく触れましょうか。


まず彼女は「本を読もうとします」

しかし「暑いために集中できない、虫がうるさい」

そして「同じ空間にいる本の持ち主が汗を念押ししてきます」 

 ここまでに物質的なものを書く必要性がないんです。全ては彼女の感性と、音で完結していますから。
 これが言わば、主人公の視点から見た描写の必要性の話になります。
 必要が無いものは書かない、それが基本です。余計な印象で目がぶれますし、冗長な印象を与えかねません。

描写の順番

 例えばそうですね。

 目の前で小学生が転びました、遅刻しそうなサラリーマンが走っています、UFOが飛んでます。

まず目が行くのはどこでしょうか。

 大体の人は小学生だと思います。UFO気になりますが、小学生です。目の前ですし。サラリーマンは特に視線いかないかもしれません。

 ここでそう、描写を並び替えてみましょう。

 UFOが飛んでいて、小学生が転んでいる。サラリーマンが横を駆け抜ける。そしてUFOが、飛んでいる。


 UFO大好きさんですね、人の心がないんでしょうか。

 サラリーマンが走る、子供が転び、UFOが飛んでいた。

 サラリーマン本人ですかね、例えば遅刻しそうでももっと周りに興味を持った方がいいと思います。

 このように、描写はそのまま視線の動きになります。

 なので不自然にあちこち動く描写は嫌われますし、距離感のぐちゃぐちゃした描写は目が回ります。
 さらにあれです。それを見ている人間の印象も左右しますから、注意散漫な人なんてキャラ付けをしてない限りやり過ぎは辞めましょう。
  
描写の仕方

 正直めちゃくちゃに個人差のある話ですし、これが正解なんてないので最後にします。

 私の感覚では基本的に「視覚」より「触覚」「聴覚」が先に来ると収まりが良く感じます。

 何かを感じて、それから目を向ける。自然な動きでしょう?
 書き出しなんかでは丁寧に話に集中できる感じもします。いきなり目の前にビル街が、なんて言われても困っちゃいません?

 そしてもうひとつ、心情描写と呼ばれるものです。


「誰でもいい」

 「あっつ」
 熱の篭もるのを発散しようと、タオルが床に落ちるのを承知で背もたれに体重を預ける。
 演壇に登るのは間違いなく楽しかった。その上で私でない何者かを演じるのも。この脚本家が気に食わなくとも演劇への適性は確かにあったのかもしれない。
「別にお前がいないと劇ができない、なんてことはないがな」
「最低な言い草ね」

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12037703

 尺もないですし端的に述べます。

 心情描写は曖昧に簡潔にしましょう。
 人の心は複雑では無いです、でも直接的でもないです。想像の余地を残しながら手早く〆ましょう。