見出し画像

【イギリス】大学で学ぶスポーツリハビリのカリキュラムについて

私はイギリスにある大学でスポーツリハビリを学び、
現在スポーツリハビリ士として現地のイギリスで働いています。

私の実際の経験から、具体的に、

・イギリスの大学で何を学んだのか
・日本との違いは何か

説明したいと思います。


イギリスの大学は3年制

まず、日本と大きく異なることは
学位が3年で取れるというところになります。

私が通った大学は、
各科目が[レクチャー・セミナー・チュートリアル]に分かれており、
レクチャーでは座学で知識を、
セミナーでは、実験や実技など実践的な学習、
チュートリアルでは、学びを深めるためのディスカッションやクリティカルシンキングを中心とした授業でした。

1年生(First Year)

運動生理学
1年の授業数の過半数を運動生理学が占めています。
キネシオロジー (運動学/運動機能学/動作学)
バイオメカニクス(生体力学)
スポーツマッサージ

イギリスのスポーツマッサージは、オイルを使って行う流動的なマッサージです。実技試験に合格しなければ、実習への参加と進級が認められません。
心理学
2年で学ぶスポーツ心理学の授業に備えて、心理学の基本を学びます。
研究方法と統計
卒業論文に必要な研究の基本となる知識や、データの扱い方、統計ソフトウェアの使い方を学びます。
現場実習見学(50時間)
病院やクリニック、スポーツチームの現場で50時間以上の見学を行い、2年から始まる本格的な現場実習に向けて準備します。

2年生 (Second Year)

怪我と診断
身体の部位別に、筋骨格系の怪我や症状ついて学び、
スペシャルテスト(整形外科テスト)の実技試験があります。
筋骨格系の治療
スポーツマッサージ、マニュアルセラピー、関節モビライゼーション、
電気療法、MET(Muscle Energy Technique)などを含む手技を学びます。
運動処方
一般的な傷害を考慮し、リハビリテーションにおける初期、中期、後期の運動処方のスキルを学びます。また、臨床的な推論スキルを用いて、様々な患者の様々な傷害に効果があるように、様々な種類のエクササイズを提案し、臨床的に適切な段階的エクササイズリハビリテーション戦略を作成する練習をします。
スポーツ心理学
運動生理学
バイオメカニクス
身体活動と健康増進

1年目の学習を基に、身体活動と健康の関係についての理解を深め、障害者、マイノリティグループ、職場など、さまざまなコミュニティや環境における身体活動促進のためのさまざまな健康増進に関する知識を学びます。
研究方法と統計
より実践的なデータの分析と統計ソフトウェアの使い方について学び、卒業論文の研究計画を練る。
現場実習(150-200時間)

3年生(Final Year)

傷害予防
怪我や傷害リスクを減少させるための、エビデンスに基づいたスクリーニング戦略とそれに伴う運動戦略を学びます。
応急処置の資格取得
イングランドのラグビー協会認定の応急処置の資格を取得します。この資格は、プロのスポーツ界で働く人には必須であり、アナフィラキシー、大内出血、気胸、心停止、急性骨折、脊椎損傷、およびそれらに関連する管理など、入院前の緊急処置のあらゆる側面をカバーしています。
運動処方 X バイオメカニクス
初期段階のリハビリからプレー復帰までの戦略を構築するために、これらの重要な分野を組み合わせて、知識、スキル、実践力を身につけます。
応用臨床介入
徒手療法に対する理解と実践的な臨床介入スキルを上級レベルまで発展させ、実践現場で使える
身体活動と健康増進
非伝染性疾患の割合が増加し続ける中、糖尿病、骨粗しょう症、妊娠、子供など、様々な疾病を持つ人々や健康な人々の健康増進のための運動処方におけるベストプラクティスを学びます。
スポーツ・コーチング科学
スクリーニング、年齢、性別、リカバリー、睡眠、栄養などの問題を考慮しながら、トレーニングの構成とプログラミングをエビデンスに基づいて作成します。
小児運動科学
小児および青少年における成長、発達、フィジカルリテラシー、成熟の問題、トレーニングの生理学を学びます。
応用スポーツバイオメカニクス
モーションキャプチャーとフォースプレート分析を活用し、スポーツパフォーマンスの3D分析とテクニック分析の方法を学びます。
研究論文
現場実習(150-200時間)


日本との違い

夏休みとReading Week

3年の中に、実習や卒業論文がぎゅぎゅっと詰め込まれていますが
授業のある期間は9月から5月まで、学年末にある試験は6月だったので、
夏休みは3か月もありその期間に現場実習へ行く学生が多いです。

逆に言えば、
その3か月で学生によってかなり差が生まれることが多いです。

1年間の復習から、実技の練習、
現場実習を自ら交渉して出向いたりする学生と
3か月何もしないまま新学期に来る学生とでは
顔つきも経験値もまるで違います。

また、イギリスの大学にはReading Weekというものがあり、
大学によって時期や頻度は異なりますが、
定期的に1週間の復習・自習期間を設けられています。

私が通った大学は、4週間おきに1週間のReading Weekがあったため、
1ヶ月で学んだことをその1週間で復習し、さらに最新の論文を読んだり学びを自ら深める期間でした。
科目によっては、その期間を提出物の期日にしたり、
教授がオススメの論文をたくさん載せてくれたりと、活用方法は様々です。

カリキュラムの違い

1.現場実習の時間が多い
日本のATは180時間の現場実習を必須としているのに対し、イギリスのスポーツリハビリの資格では400時間以上の現場実習を必須としている2倍以上の時間をこなさなければいけません。3年しかない大学生活で、1年次は50時間の見学のみなので、実質2年で350時間以上する必要があります。
ただ、大学でインプットした知識をアウトプットする機会が多いということなので、実践的な知識とスキルが身に着きやすいです。

基本的に実習先は、スポーツチームやイベント、プライベートクリニック(理学療法、カイロプラクティック、スポーツセラピー)で、病院へ行った学生は私の大学ではいませんでした。

大学から強制されて行くわけではなく、いくつか提示される場所の中から選択、応募するか、自分で経験を積みたいスポーツや手技を練習できる現場に自ら交渉するパターンでした。

私は、夏休みに日本へ一時帰国した際に、Bリーグのチームや野球チームなどで実習をし、イギリスでは、ラグビーチームやプライベートクリニックで実習して400時間を終えました。

2.テーピングの授業数が少ない
スポーツトレーナーといえば、テーピングみたいなイメージがありますが、私の専攻ではそこまで重要視されておらず、試験すらありませんでした。
年に2回ほどセミナーはありましたが、自由参加のため単位にも入っていません。自習先で学んだり、大学の施設に自由に使えるテープはあったので、個人で練習する形でした。実費で外部のテーピングセミナーなどに参加して学ぶ学生もいます。

3.試験対策は全くない
日本のATが取れる専門学校や大学では、資格試験の対策授業が必ずあると思いますが、それは全くありませんでした。大学で習ったことが全部でるよ。とだけ言われていたのですが、本当にその通りでした。解剖学やスペシャルテストなどの基本的な知識から、心理学、生理学、運動学、データサイエンスまで事細かく出題されたので、1年からの積み重ねが大切です。

4.アメリカ・ATCの受験資格が得られる
資格取得後、アメリカのATCの試験を受けることが出来ます。
現在ATC取得には学士+大学院で6年かかりますが、なんとイギリスのBASRaTを持っていれば最短の3年で受験することができます。
ただ、試験対策が自習になるのと、アメリカの保険制度などはイギリスでは教わらないので追加で勉強する必要があります。

5.マニュアルセラピーが学べる
ヨーロッパでは主流のマニュアルセラピー(徒手療法)を深く学ぶことができます。理論から手技を学び、実技試験もあります。

6.教科書を一切使わない
一応、推奨される本は1年の最初に紹介されますが強制ではありません。
運動生理学、解剖学、運動療法の本を私は買いましたが、自習でしか使いませんでした。授業は教授が作ったパワーポイントやドキュメントがベースで、課題や宿題などはすべて論文、いわゆるエビデンスベースでした。最初から教科書に頼らず、エビデンスベースで知識を学んでいくので、論文の見つけ方から読み方まで、1年で既にマスターしていました。また、英語で論文が読めるとやはり母数が違うため様々な国の研究が読めて楽しいです。


いかがでしたでしょうか。
日本やアメリカがトレーナーの勉強の場として主流ですが
これを機にイギリスもぜひ視野に入れてみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!