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吃音改善と認知行動療法②~コラム法~

はじめに

先日の記事で認知行動療法の基本をまとめました。

認知行動療法は、不適切な思考や信念を特定し、それらをより現実的かつ機能的なものへと再構築することを目的としています。吃音においては、発話に対する恐怖や不安を和らげ、自己受容を促進するために特に有効です。この記事では、認知行動療法の実践的なワークの1つであるコラム法についてまとめていきます。


コラム法とは

コラム法は認知行動療法のテクニックの1つで、自分の思考や感情、行動パターンを理解し、それを再構築するための方法です。吃音当事者にとっては、不安や恥ずかしさの感情とそれに伴う自動思考を理解し、それを管理するための効果的な方法となります。

コラム法では、特定の出来事や状況に対する個人の反応を「コラム」またはカテゴリーに分けて記述します。これにより、否定的な自動思考を識別し、それに対し反証となる具体的な根拠を見つけ出し、最終的にはより現実的で肯定的な思考に置き換えることができます。この方法は、自己認識を高めると同時に、吃音を伴う状況での感情的な反応を軽減するのに役立ちます。

コラム法を使用することで、吃音が引き起こす不安や恐れを減らすことができます。このアプローチは、自分自身の内面的な対話を理解し、それをより建設的なものへと変える手助けをするため、吃音当事者にとっても非常に有効です。

コラム法のやり方

コラム法は個人の思考、感情、行動を詳細に分析し、改善へと導くための工夫がなされています。
ここで、各ステップの目的と手順を説明し、具体例もまとめていきます。
まずは一般的な例を示し、そのあとで吃音での例も書いていきます。

ステップ1: できごとを書き出す

ストレスを引き起こす出来事を特定し、その状況を明確に記述することで、感情や思考のトリガーを理解します。

  • 手順: 具体的な状況を詳細に書き出す。

  • : プロジェクトの重要なレポート提出で計算ミスがあった。

ステップ2: 沸き起こった感情を一言で表し、数字でその強さを示す

感情を識別し、その強度を評価することで、反応の程度を理解します。

  • 手順: 感情を一言で表し、0~100%で強さを数値化する。

  • : 感情: 恥ずかしさ:90%

感情を表す言葉は、下記サイトやラッセルの円環モデルが参考になります。

情動評価のためのラッセルの円環モデルに基づく感情重心推定手法の提案

ステップ3: そのときの自動思考を書く

自分が無意識に持っている即座の思考(自動思考)を明らかにし、それがどのように感情に影響しているかを理解します。

  • 手順: 自動的に浮かんだ思考を具体的に記述する。

  • : 「みんなに信用されなくなるかもしれない」

ステップ4: その考えを裏づける事実(根拠)を探す

自動思考を支持する事実を見つけることで、その思考がどの程度現実的かを評価します。

  • 手順: 思考を裏付ける具体的な事例や証拠を列挙する。

  • : 過去にも小さなミスをして、上司から注意されたことがある。

ステップ5: その考えと矛盾する事実(反証)を探す

自動思考に対する反証を探し出し、それによってよりバランスの取れた視点を得ます。

  • 手順: 思考に反する事実や証拠を列挙する。

  • : 大半のプロジェクトで良い評価を受けている。同僚からも頼りにされている。

ステップ6: 根拠と反証をふまえて自動思考とは別の考えを見つける

根拠と反証を基に、新しい、より現実的で建設的な考えを形成する。

  • 手順: 自動思考の代替となる新しい考えを提案する。

  • 一般例: 「誰でもミスはする。重要なのは、ミスから学び改善することだ」

ここでは、「同じように悩んでいる親友がいたら、どんな声をかけるか」という風に考えると、思い付きやすくなります。

ステップ7: 別の考えを見つけたことで起きた感情の変化を示す

新しい思考が感情に与えた影響を評価し、その変化を確認する。

  • 手順: 新しい考えに基づく感情の変化を詳細に記述する。

  • : 恥ずかしさ:40%

ここでは、0%にならなくても良いですし、パーセントが変わらなくても大丈夫です。普段客観的に見ようとしない感情を俯瞰的に評価するだけでも、メタ認知の向上といった効果があり、建設的な思考習慣の形成に役立ちます。

他にもパニック障害の例が書かれた論文もありますので、そのコラム法実施例を紹介します。

黒沢顕三 高塩理 2014 昭和学士会誌 第74巻 第6号641-653 認知行動療法

このようにコラム法を通じて、問題となる思考や感情に対して体系的にアプローチし、客観的で建設的な変化を促します。これにより、様々な心理的課題への対応が可能になります。

コラム法のやり方(吃音の場合)

ここでは、吃音を持つ人が「自己紹介で吃ってしまった」という具体的な状況を例に、コラム法の各ステップの例を示します。

ステップ1: できごとを書き出す

  • : 新しいクラスでの自己紹介時、名前を言おうとしたが、言葉が詰まってしまった。

ステップ2: 沸き起こった感情を一言で表し、数字でその強さを示す

  • : 焦り80%、恥ずかしさ90%、みじめさ80%

ステップ3: そのときの自動思考を書く

  • : 「みんなが私のことを変なやつだと思っているかもしれない」

ステップ4: その考えを裏づける事実(根拠)を探す

  • : 過去に自己紹介の際に詰まって、周りが気まずい顔をしたことがある。

ステップ5: その考えと矛盾する事実(反証)を探す

  • : 多くの友人が吃音に関わらず私と普通に接してくれている。

ステップ6: 根拠と反証をふまえて自動思考とは別の考えを見つける

  • : 「人はそれほど私の吃音に気を留めていない。自分を表現することが最も重要だ」

ステップ7: 別の考えを見つけたことで起きた感情の変化を示す

  • : 焦り40%、恥ずかしさ50%、みじめさ50%

このコラム法を繰り返し行うことで、徐々に偏った思考習慣が修正されていき、より建設的で現実的な思考習慣を身に付けることができます。
それにより、予期不安、自己嫌悪などから脱却できるようになっていきます。

コラム法の種類(3、5、7コラム)

コラム法にはいくつかの種類が存在し、主に3コラム法、5コラム法、7コラム法があります。時間や状況などに応じて使い分ければ良いと思います。

3コラム法
この方法では、出来事、感情、自動思考の3つのコラムを用い、簡潔に特定の状況に対する自動思考とそれに伴う感情を捉えます。

  • :

    • 出来事: プレゼンテーション中に言葉が詰まった。

    • 感情: 焦り70%

    • 自動思考: 「皆が私を評価している」

5コラム法
出来事、自動思考、感情、反証、感情の変化の5つのコラムを使用し、 自動思考の根拠と反証を明確にすることで、より詳細な自己洞察を促します。

  • :

    • 出来事: 新製品の説明会でつまずいた。

    • 感情: 落ち込み80%

    • 自動思考: 「誰も私の話に興味がない」

    • 反証: 多くの参加者が質問をしてくれて、興味を持っていた。

    • 感情:落ち込み20%

7コラム法
出来事、感情、自動思考、根拠、反証、新しい思考、感情の変化の7つのコラムを用いる最も詳細な方法です。新しい思考とその思考によって引き起こされる新しい感情を探求することで、感情の変化を具体的に体感します。

  • :

    • 出来事: チームミーティングで発言した際に詰まった。

    • 感情: 不安90%

    • 自動思考: 「私はチームに貢献できない」

    • 根拠: 過去に発言が無視されたことがある。

    • 反証: 多くの場合、意見が積極的に評価され、取り入れられている。

    • 新しい思考:「チームは私の意見を価値あるものと見ている」

    • 感情: 不安40%

これらのバリエーションを通じて、個々の状況や治療の目標に応じてコラム法を柔軟に適用することが可能です。

私がやったコラム法

私がやったコラム法を載せていきます(恥ずかしいですが…)
なおここでは、上記のステップ以外にも「認知のゆがみパターン」も書いていて、より言語化するようにしています。

① 電話の予期不安

② 吃音による自己嫌悪(他者との比較)

③ 電話での失敗

コラム法は少し時間が掛かりますが、終わった後は心がスーッと落ち着いた感じがあり、気持ちが楽になりました。
ただ状況によってはすぐできるものではないので、仕事で辛いことがあったときは、家に帰ったら「やばいやばい!早くコラム法をぉぉぉぉ!」という感じでやっていました笑

今回はコラム法をまとめましたが、他にもたくさんワークがあるので、また別の記事でまとめていきます!

参考

1)コラム法とは?アプリで実践!やり方やワークシート、認知行動療法の理論を紹介
2)厚生労働省 うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル
3)日本語表現インフォ 気持ち、感情表現、喜怒哀楽の一覧
4)江川 翔一  瀬島 吉裕 佐藤 洋一郎 2019 情動評価のためのラッセルの円環モデルに基づく感情重心推定手法の提案
5)黒沢顕三 高塩理 2014 昭和学士会誌 第74巻 第6号641-653 認知行動療法

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