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【140文字SS×3】「かすかに」「古」「現代病」

「かすかに」
バレンタインの夜。耳の後ろからかすかに聞こえた寝息に、驚いて飛び起きた。しかし隣を見ても、寝息の主はいない。たまに連れて帰ってきてしまう体質であるのは自覚があったが、こんな日に限って、と吐き捨てた。どうせなら、異性でヨロシクしたかった。しかし、その寝息はどう考えても男物なのだ。 

「古」
母は古いものをとことん大事にする性質だった。ぼろぼろになった包丁は毎日のように研いでいたし、洗濯機はがこんがこんと大きな音をたてて苦しそうに回っていた。冷蔵庫から常時漂っていた異臭は、特に古さの象徴だった。父が亡くなってから、さらに強くなったのだ、それは。 

「現代病」
昼より夜の方が楽しいから、太陽よりも月が好き。太陽って表現としてベタ。月はクール。やっぱり太陽よりも月だよね。今の子どもの大半は皆太陽の笑顔など持たない捻くれ者で、外で遊びもしない。太陽に雲が差し掛かり、何年来の降雪。ついに涙まで凍ったか、とほくそ笑む現代病。 

もっと書きます。