見出し画像

【SS】六発の散弾

 父の肩には今も六発の散弾が散らばっている。
 暴発した猟銃。九十八発の弾が父の肩にばらまかれた。本来その銃口が向かうはずであった野生の鹿は、銃声を聞き逃げていったそうだ。しかし、倒れ込む父の身体を、一瞬だけ鹿の目が見下していたことを、父は記憶から消せないでいる。それはわずかコンマ何秒程度であったはずだが、スローモーションのようにゆっくり、そして何度も脳内再生された。生きているか死んでいるかわからない、剥製のガラス玉のように光った鹿の目が真っ赤に染まった父の身体を見下ろして、さらには、鼻で笑ったというのだ。

 猟銃に撃たれて以来、父は猟に出るのをやめた。
 時折週末の夜、父は浴びるようにウイスキーを食らっては、暴発の瞬間について昨日のことのように語る。数十回、数百回、一字一句変わらぬ流れで、その一瞬を切り取り尽くす。そうして話し終わった後は決まって黙り込み、遠くを見て暫く佇む。その視線の先にいるのは、鹿か、恐怖に満ちた表情の自分か、どちらだろう。
 黙りこくった後、「いつまでも消えない、殺意の記憶だよ」と自分の肩を指差す。これもまた繰り返されるセリフだった。六発の弾丸はその身体にじっと身を潜め、父を今ではない場所に縛り続けている。

もっと書きます。