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悪夢は続く

秋の風はなんとなく寂しい。そうさせるのは、秋に傷付いたからなのか、秋に何かを失ったからなのか。土砂降りの雨が心に水溜まりを作る。風は冷たく頬を撫でて、街の光が淡くなっていく。ネオンが水溜まりに反射して、波紋を広げて有耶無耶になる。必死に生きるのもバカバカしくなってきた。苦しいから全部燃やしてしまおうと、ポケットから出したライターは雨に掻き消された。冬はきっといつの間にか来て、僕はきっといつの間にか死んでいる。なんとなく寂しくて、なんとなく時間がたって、なんとなくで生きて、なんとなく死ぬんだなきっと。街で叫んだって、雨音が響くこの街では、誰も僕を気にかけてくれない。雨は次第に強くなる。雷が落ちる。ピカりと光る空が、天国のように思えた。

寝起きが悪いのは昨日のせいにした。カーテンも開けずに出かける支度を済ます。雷の光が見せた天国と、土砂降りの雨が見せた孤独と、心にできた水溜まりは、全部嘘のように思えた。昨日はなぜあんなにも寂しくて苦しかったのかすら思い出せない。きっと悪い夢を見ていただけで、僕の人生はきっと朝日のように輝いているんだと言い聞かせて、精一杯心臓を動かして、僕はドアを開けて今日に挑む。「きっと悪い夢を見ていただけなんだ。」僕はいつもそうだ。こうやって言い聞かせて、心の水溜まりを覗き込むこともせずに、雷の轟音に耳を塞いで、土砂降りの雨には傘を刺して知らんぷりをしているだけなんだ。いつもそうだ。今日も土砂降り。傘を刺して知らないふりをする。水溜まりも知らないふりをする。雷がなっても耳を塞ぐだ。空が光っても気のせいだと思う。きっと悪い夢を見ているだけだ。心は少しずつ許容を超えて溢れていく。溺れそうだ。苦しいな。目が覚めたらきっといつもの朝が来る。きっと今は悪い夢を見ているだけなんだよ。

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