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人の流れ

東京の空気は重たくて冷たい。息を吸って吐くだけの、この生きる為だけのシステムに溜息が出る。街の光が重たくのしかかる。歩くのが次第に遅くなり、悴む手が寂しい。煌びやかな街が、僕の自己嫌悪を押し出していく。空腹を感じる度に、生きている事を実感する。溜息と空腹を繰り返しているだけの日々は、鬱々しく、溜息が何度も出る。溜息を何回も何回も吐いては、生きる為にまたそれを吸い込む日々。無機質に光るビルはそれを見もしない。

人は天使にはなれなくても、悪魔には簡単になれてしまう。愛するものを守るため、欲しいものを手に入れるため、確かなる悪意を持って、それを遂行する。僕の心には悪魔が住み着いている。天使はいつも、悪魔を恐れている。優しいあの子も、親切なお兄さんも、悪魔になれる。それに気付いてから、僕は人前で笑うのが苦手になった。その笑顔は、悪魔が貼り付いていやしないかが、怖くて堪らないからだ。そんな陳腐な理由だ。

渋谷のスクランブル交差点。流れる人々の1つとなって、僕は自分自身を見失いそうになった。ここでは僕は、流れでしか無いんだと。僕はとてつもなく寂しくなった。宇宙に飛び立って、地球を見下ろすイメージをする。そこに人は見えなくて、緑と青と白だけが存在している。僕は分子に過ぎないんだと感じる。その分子を結合させて、1つの流れとなっている。僕は今日も流れている。歩いて1つになっていく。僕の名前はなんだっけ。

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