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望月とカラスアゲハ

悩む事ばかり増えた。重く、淀んだ色の黒い蝶が僕の頭上を回っている。美しく鱗粉を撒き散らし、それを被った周りは不幸になっていく。年を重ねる事に、蝶は増えていく。抱えきれないブルーな感情を引きずりながら歩く。雨まで降ってくる始末だ。雨は心が寒くなる。ポツポツとなる音が僕の孤独を強調しているかのようで、曇り空を睨みつける事で存在を証明する。そんなことをしていても、空は晴れないと知っていながら、小さい僕は、空を睨みつける事しかできない。その行為は憎しみを募らせ、また雨を降らせる。そんな事にも気付かない盲目の僕では、晴れた空を見る事はできないのだ。

何が悲しいと聞かれても、何も答えれないのが僕だ。僕は高等なものを求めているわけでは無い。それなのに、1つも良くならない僕の人生に価値は無い。笑うことで誤魔化している。一生晴れない空の下で笑えている気になっている。調律の乱れた心のピアノで月の光を弾いてみても、その月は輝いていない。少し朧に、光っている気になっている。それはまるで、水面に映る月のように歪んで光る。それはそれで風情があるようにも見えるが、僕からすると、乱れた心そのものなのだ。映し出された月は、僕の心。夜空に浮かぶ満月は、きっと正しい人だけが見上げる事を許されている。正しくない僕の頭上だけに雲が咲いている。黒い蝶が飛んでいる。鱗粉を撒き散らしている。不幸を募らせ、それは雲を作り、雨が降る。月は今日も顔を出さないでいる。星すら数えれない夜が続いている。帰路を辿る途中の街灯の下に猫がいる。手を振ると、猫はそっぽ向いて闇の底へ消えていった。

団地の子供がバスケをしている。僕はそこにいない。未来に取り残された気分になっている。過去を掘りこそうにも、焦ってドアを間違えそうになる。僕はあの日の猫のようにそっぽ向いてその場から消える。闇の底から蝶が溢れている。僕の頭上にいる蝶と同じだ。闇の底、満月の裏側。星を数えれない夜。朝焼けが蝶を焼き、月を真っ白にする。月を消した気になっている。蝶を焼き殺した気になっている。星を消した気になっている。傲慢な太陽を睨んで、僕は存在を証明する。黒い蝶は鱗粉を撒き散らし、被った周りは不幸になる。

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