『Sátántangó』
上映時間が400分を超える長い映画として有名なタル・ベーラの代表作『サタンタンゴ』。登場人物の一人に「フタキ」という男がいる。U2のボノにそっくりな渋い俳優が演じるミステリアスな役だ。何回か本人なのではないかと疑うレベルで似ているが、"例の暑苦しい歌い方"はこの映画の雰囲気にそぐわないから違うのだろう。
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言うまでもなく、タル・ベーラとU2にはなんの結びつきもない。
少年/少女、異なる目付きは何を意味する
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『サタンタンゴ』は異常な緊迫感のある世紀末的な映画であるが、なかでも強く心に訴えかけるシーンが一つある。少女が猫を虐め、殺めるシーンだ。猫を追いかけ、首を絞め、最後はミルクを飲ませ眠りにつかせる。猫好きには耐え難いであろう場面が延々と続くが、単なる加虐趣味を満たすような浅はかなものではない。少女の表情を見れば明らかだ。猫に対する"怒りと憐れみ"の両方をそこからは見て取れる。もしかすると、その感情の矛先は猫ではなく少女自身に対してかもしれない。
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やがて少女は"焦燥の笑顔"を浮かべ一本道を歩く
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メキシコの映画監督カルロス・レイダガスの『闇のあとの光』にも犬を執拗に殴りつけるシーンがあり、ショッキングだったことを思い出す。
動物が虐めを受けるシーンは例外なく苦しみを伴う。それが映画であって、実際には適切な演技指導を伴うものであったと知っていても、やはり息が詰まる。暴力は記号ではない。そこには身体がある。
少女も眠りにつく、後を追うように
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人が死ぬことで物語は進み、あるいは終わる。
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生者がいてこそ、死者が"存在"する。残された人々は延々と歩き、そして時折感情を失ったように硬直する。
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粛々と、肩に落ちる雨
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終始雨が降る中、誰一人として傘をささないのが印象的だ。
『サタンタンゴ』の"雨"は強く聴覚に訴えかけてくる。雨音はもちろん、ぬかるんだ地面を踏み締める足音がいちいち生々しい。
雨/憂鬱という連関。泥濘を奥まで踏みつける不快さとその湿った音。
雨の逼迫した情緒には"傘がない"ほうが似合う。
足元に目もくれず、ただ一本道を進む
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色がなく、傘を持たない。脳裏に『羅生門』がよぎる。
雨の中に饗宴を見る/見られる
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映画において"不可視"なのは触感と匂いだ。雨粒が肩にあたる、その匂いはどのようなものだろう。想像で補えば補うほど、息が詰まる。
ある者は眠りにつき、
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そして、ある者は歩く。
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