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物語と現実の狭間

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時に現実は物語になり、物語は現実を変える。小説のような随筆のような時系列のない日記を、気が向いた頻度で書いています。
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#忘れられない恋物語

激しく愚かな恋を喪って見つけた、ひとが生きる理由(4/4)【物語と現実の狭間(7)】

1、2、3はこちら。  あれから随分長い時間が経った。  あの日から、恋人という意味に限らずたくさんのひとと出逢ったし、たくさんのひとと別れた。その中で一度も自分を見失わなかった? と訊かれたら、「駄目だったよ」と自嘲するしかない。  わたしが自分を見失わなかった場合でも、相対する誰かが自分を見失ってしまうこともあった。あなたにとってのわたしがそうだったように、わたしの大切なひとが、我を失い自分やわたしを「幸せになること」から遠ざけようとする。残念ながら、それは珍しいこと

激しく愚かな恋を喪って見つけた、ひとが生きる理由(3/4)【物語と現実の狭間(6)】

1、2はこちら。  実は、ほとんど記憶のない期間がある。  あなたにさよならを告げられてから約半年の間に、空白の時間があった。記憶喪失とは違うけど、似たようなものかもしれない。半身を預けていた恋と一緒に自分というものの正体を失って、地縛霊のようにどこにもいけないままふわふわと漂っているような時期だった。  その間も頭と手だけは動いていた。考えては書き、書いては考え、書いたものも考えたものも叩き壊してはまた考えて、また書いて……まるでそれが延命する唯一の行為であるように繰

激しく愚かな恋を喪って見つけた、ひとが生きる理由(2/4)【物語と現実の狭間(5)】

1はこちら。 その手紙には薄青のサインペンで大きくこう書いてあった。 「SMILE ON ME!」  横にはあなたが自分を模したイラストが添えられていて、あなたはわたしに全力で笑いかけていた。  受け取った当時、わたしはあなたの意図を深く考えることもなく、どんな反応も返さなかった。でもそれはあなたが溢れてしまう寸前の、切実な叫びだったのだ。きっとそのころのわたしは、あなたの前でろくに笑うこともなくなっていた。  たぶん、そのとき初めてわたしは取り返しのつかなさをはっ

激しく愚かな恋を喪って見つけた、ひとが生きる理由(1/4)【物語と現実の狭間(4)】

「好きだよ」  とまっすぐ目を合わせて言われるたびに、わたしはなにかに許されたような気になって、胸のまんなかから手足の指先までじんわり温かいものが広がっていく感覚に酩酊した。  あなたは物心ついて以来初めてわたしが寄り掛かることを受け入れてくれたひとで、お互いに"いちばん"だと言い合えることの安心感も、ひとの手が心地良い熱を帯びていることも教えてくれた。黙っていると無愛想だと言われがちなわたしが、意外と恋に没入するたちだということも、あなたと会うまで知らなかった。  初め