【LUNA SEA同タイトル小説】『TIME IS DEAD』

【LUNA SEA同タイトル小説におけるマイルール】
*LUNA SEAの曲タイトルをタイトルとする
*タイトルの意味と、曲から受けるインスピレーションをもとに創作する
(歌詞に沿った話を書くわけではない。歌詞の一部を拝借する場合はあり)
*即興で作る
*暗めなのはLUNA SEAの曲のせいです(笑)特に初期…
ノーマルの創作はこんな雰囲気です

『TIME IS DEAD』

 部屋の片隅に黄色い花が浮かんでいる。花の輪郭は、ぼやけて見える。いや、その部屋全体がぼやけているのかもしれない。何かを思い出したいのに思い出せないようなもやもやした感じだ。ずっと見ていると嫌悪感さえ起こってくる。

 午前三時。布団の中で目を覚ます。またか、とケンジは心の中でつぶやいた。軽い吐き気もいつもと同じだ。同じ映像だけが繰り返される、この夢とも記憶ともつかないものは何なのだろう。毎日というわけではないが、週に1、2度は起こっている。半年ぐらい前からだ。部屋にも花にも見覚えはない。といっても、ぼやけていてはっきりとは見えないのだけれど。
そして、黄色い花。ぼやけているのに気になって仕方がない。目をそらすことが出来ない。それは、自分に語りかけているようでもあるし、ひどく責め立てているようでもある。何か嫌な気分になるのだ。
 ケンジは布団をかぶって目を閉じた。しばらくは眠れないとわかっていても、そうするより他はなかった。まどろみの中、意識はまた黄色い花のある部屋へと落ちていった。ぼやけた黄色い花を覆うように黒い影が現れた。ケンジは、眠りに落ちていく過程の闇だと思った。遠くに聞こえるかすかな声も、耳には届かなかった。

 階下の朝食の音で目が覚めた。時計は8時15分を指している。頭が重い。
「お、日曜なのに早いね」
 階下に降りていくと、2つ上の姉カスミが声をかけた。父親は新聞を読み、母親は洗濯を始めている。
ダイニングテーブルにつき、ふと視線を窓に投げかけると隣家の庭が見えた。そこには、淡い黄色の花が咲いていた。フェンスをこれでもかというくらい、たくさんの花が覆っている。鼓動が早くなり、めまいのようなものを覚える。直感的にあの黄色い花と同じだと思った。
「カスミ……」
 ケンジはかすれた声で言った。ケンジの視線を追いながら、カスミも窓の外を見つめた。
「あの花、何?」
「モッコウバラよ」
 花なんかに興味あったの?というような顔でカスミが言った。
 モッコウバラ?
「最近よく見かけるよね」
「そうかな」
「バラ科なのに、棘がないのよ」
(バラ科なのに棘がないのよ)
 カスミの声と誰かの声が重なって、頭の中でこだました。

 二日後の夜、再びケンジは黄色い花のある部屋へ入り込んでいた。黒い影がさっと横切った。女の子のシルエット。女の子は片隅にある黄色い花を一本手にした。
(この花はね…)
 少女は枝に手を添えた。
(バラ科なのに棘がないのよ)
 アオイ?
(この花にね、閉じ込めるんだよ) 
 何を?そう言おうとしたケンジの声は闇に飲み込まれ、意識は現実へと戻った。

「記憶と想いを閉じ込めるの」
 中学生のアオイが言った。手に黄色い花が握られている。
「この花はね、モッコウバラっていうの。バラ科なのに棘がないのよ」
 同じく中学生のケンジは、アオイが何を言っているのか理解できないでいた。
「だからね、私たちの記憶も想いも傷つかないわ」
 そう言って、枝を手で撫でた。
 付き合っていたわけではなかったけれど、お互いの想いには気づいていた。
「どういうこと?」
 ケンジは疑問を口にした。アオイは少し微笑むと、細長い栞をケンジに手渡した。モッコウバラが押し花にしてありラミネートされた栞だ。
「裏はまだ見ないで」
 ケンジは困った顔を作った。

 その次の日に、アオイは消えた。ケンジの前からいなくなった。事故だった。新聞にはそう載っていた。アオイは、自分の「時」までも閉じ込めてしまったのだろうか。そして、それ以上進めなくなってしまったのだろうか。

 半年前に机の引き出しから栞が出てきた時、ケンジはアオイとの「時」を忘れてしまっていた。たった一年前の出来事だというのに。
 栞の裏には「初恋」という文字が細く小さな字で書いてあった。モッコウバラの花言葉だった。


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