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【UWC体験記㉘】Head Shaveーチャリティのために坊主にしてみた

外部の人からするとおそらく一番衝撃的なACのイベントがAmnesty Head Shave。国際的な人権違反に取り組むAmnesty International への募金を目的として、その名の通り頭を剃って坊主にする、というイベントです。

薄っすら渡航前から聞いてはいたのですが、まさかそんなこと本当に起こるわけないだろう、あってもやるのは少数の男子たちだけだろう、と少し祈るような気持ちで思っていたところ、1年目の10月ごろHead Shaveに関する全校メールが送られてきました。

参加者は自分でオンラインのクラウドファンディングページをセットアップし、Head Shaveの前に寄付を集めます。そして当日に一斉にみんなで剃る、という形です。髪が長い人は自分で髪を寄付することもできます。

びっくりしたのはその後次々と同級生の1年生たちが参加を表明し始めたこと。しかもそのほとんどが女子。

私は色んなものに挑戦すると決めていたものの、最終的にはさすがに勇気が出ず、ただものすごく気になりHead Shaveのイベント自体には行ってみました。


衝撃的な光景

最初に約20名の参加者たちが1人ずつ他の大勢の生徒たちの前で自分の抱負を語り、その後一斉にそこら中で他の生徒がバリカンで参加者たちの頭を剃っていきます。

本気で目を疑う光景です。腰近くまで髪が長かった友達が坊主になっていく、、、一瞬やはり、「かわいそう」という哀れな気持ちが湧き上がって来てしまいます。

ただ、そのイベント自体にはそんな空気は微塵もなく、大音量の音楽がかかりみんなもはやパーティ気分でお互いの頭を剃っていきます。そして何より、参加者たち自身がみなものすごく楽しそう。誰も笑顔を絶やしません。

親しい友達が参加していたりすると飛び入りで剃る人も出てきて、最終的には当初の予定の倍以上の人たちが次々と坊主になっていきます。

もはや完全に会場全体が深夜テンションというか、かなり皆がハイになっている状況で、自分でも驚くことに「私もやりたい!」という気持ちがとても強くなっていました。

ただ、さすがに冷静になって考えます。私が今飛び入りでやってもちゃんとしたファンドレイジングはやってないからにあまり意味が無いよな…それに私の今の髪はウィッグ用に寄付するには短すぎるからなんかもったいないよな…

そして私がその場で心に決めたことは、「じゃあ絶対に来年やる!」ということでした。


来年は私が!

次の日、授業に行くと当然ながら坊主の人がちらほら。やっぱり一瞬びっくりするのですが、先生たちももちろん分かっているのでみんなで「おめでとう!」というように祝福します。

その後1、2週間は坊主の人を見るたびまだ見慣れず少し驚いてしまうのですが、その後は完全に慣れ、何も違和感を感じなくなります。逆にたまに食堂で同じテーブルに座った5,6人の中で坊主でないのが私だけ、といったこともあり、こちらが浮いていると感じることも。そして気が付いたみなベリーショートぐらいの髪型になっている、といった自然さでした。

親しい友達で坊主にした人たちは、「めっちゃ楽」や「そんな変わんないよ」といったポジティブなコメントから「髪が戻ってきてほしいー!」といった切実なものまで本当に様々な反応があります。

私自身は以前にもヘアドネーションをしたことがあり、なるべく長い髪の方がドネーションとしては貴重と知っていたので、一切切らずに来年のHead Shaveまで伸ばし続けることにしました。

なので当然、夏休みに実家に戻った時も3か月の休みの中で髪は切りに行きません。前回切ったのがUWCに行く前の2月。長すぎて面倒くさいのですがなんとか踏ん張ります。

そして2年目の10月になり、友達の間でHead Shaveが話題に上がるようになります。それまでは誰にも言っていませんでしたが、このタイミングで「私やろうと思ってる」と話します。

すると私が真面目で少々大人しめのキャラであるためか「え!!うそでしょ!」とものすごく驚かれます。去年参加した同級生などはとても応援してくれるのですが、少し気になるのは彼らが「もう今年は私はやらないかなー」と苦笑いすること。

参加表明した私にはネガティブなことはあまり教えてくれないので、あえて「坊主にして後悔したことは?」と聞きまわります。すると「服が似合わなくなる」「伸ばしかけがひどい見た目になる」「とにかく寒い」などまあまあ出てきます。

そんなに大きなことでは無いと分かりつつ、やはり少し不安にはなります。そんな中、昨年同様に次々に1年生たちが参加を表明していきます。彼らは私の同級生たちからの去年の体験談をあまり聞いておらず、怖いもの知らず。

逆に私は、このリアルな体験を同級生の友達から事前に聞けたし、もし参加した後に後悔したりしても既に経験があり相談できる人たちが周りにたくさんいるというメリットがある!と覚悟を決め、私も参加表明をし、クラウドファンディングのページを立ち上げました。

昨年はそこまでの偏りには気が付きませんでしたが、事前に正式に参加表明をした人の中では私が唯一の2年生。確かに、チャレンジ精神ややる気が旺盛な1年生と違い、私たち2年生は1番学業も大学出願準備も忙しい時期でみな疲れ気味。2年目の前期は、ACの他のイベントの参加率などにおいても同じようなことが言えます。


私が坊主にしたい理由

私が1年経ってもなお、Head Shaveをやりたい気持ちが弱くなっていなかったのは、じっくり考えて私が参加したい理由がただの突発的な衝動よりずっと大きいものがあったからです。

1.私には髪を剃る「自由」がある
私は日本で生まれ育ち、生活において何1つ不自由を経験することなく生きてきました。学校でも趣味でもやりたいことができて欲しいものが得られる。でも世界的には私のような人は本当に恵まれている方で、多くの人にはその自由が制限される

そして私は今UWCというまたさらに恵まれた環境に来て、ポジティブなこととして、そのような自由が無い人のためにお金を集めるために、「髪を剃る」というイベントに参加する「自由」さえある。

たかが髪ごときを犠牲にするだけで、自分には十分すぎるほどある自由を他の人の最低限の自由のために使うことができる。これはやらない方がおかしい、と思ったのです。

2.女子が坊主にすることへの社会的嫌悪感
日本社会では特に女子が「坊主にする」ことは古くからタブー視されていたり、かなり重い恥さらしとして扱われているところがあります。小学生の時に女性アイドルがスキャンダルの謝罪で坊主にしたことは今でも覚えているし、「坊主」が男子には重い罰として課された以前の部活でも「さすがに女子には」と坊主が指示されることは無かった。

古典の授業では「昔は髪は女性の命だった」と習ったけど、今でもそのような風潮は少なからずあると思います。そして逆に校則では「男子は長髪禁止」と多くの学校で定められていたり、髪型も古典的なジェンダー観の存続に大きく貢献していると思います。

UWCに来てからこのジェンダー観に疑問を持てるようになったことはもちろん、他にも病気などやむを得ない理由で坊主にせざるを得ない人たちもいる。むしろ坊主にすることがポジティブに捉えられているこの環境で私がそのような固定概念に働きかけることができるなんて最高じゃないかと思ったのです。

3.24 Hour Race主催者としてまずは自分が
私がこの年の主催者として既に準備を始めていた24 Hour Race。主催者チームの中でも代表者として私が全校生徒の前で話すことも何度かありました。これは人身売買をなくすためのチャリティレースで、その名の通り参加者はリレー形式とはいえ24時間走る耐久レースです。

このレースも「普段はやらない自分へのチャレンジ」をしてお金を集めるという点では今回のHead Shaveに似ています。昨年度参加した私はどれだけこれがきついかも分かっているのですが、今年は全体の責任者としてもちろん参加することはできません。

ただ、3月のレースに向けそろそろファンドレイジングを開始する時期だったため、私の中では、「自分が走らないのに他の人にファンドレイジングをさせる立場にいて良いのか」という葛藤がありました。だったら、自分自身も別の形で何かの犠牲を払う姿は見せなきゃいけない、という自分へのプレッシャーはありました。

4.自分への喝
この時はちょうど24 Hour Raceや他のプロジェクトなどで自分がリーダーとして失格だと思い込んだり、心が2年間で一番疲弊していた時期でした。なんだか自分がやれるだけをやってない感覚が常にあり、他の人と話すのも少し嫌になったり、それでいて自分が他人からどう見られているか気にしてしまい、そんな自分が嫌い、というサイクルでした。

このままじゃいけない。このHead Shaveを通して、見た目とともに心機一転できないかという希望がありました。そして坊主にしてしまうことで自分が他人からどう見られるかは一旦捨てよう、とも思いました。

Head Shave当日

そしてやってきたHead Shave本番。昨年と同様、開始時間近くになると多くの生徒が集まってきます。そしてまずは私たち参加者の意思表明。

壇上に上った約20名の内、2年生が私だけだったこともあり、まず真っ先に私にマイクが渡されます。ここで上記の1.と2.の理由を話すことができました。昨年坊主にした元ルームメイトの友達がマイクの受け渡しをやっており、話し終わった時に小さな声で「感動で泣きそうになったよ。あなたのことが誇りだよ」と言ってくれたのがとても嬉しかったです。

参加理由や意気込みを話す

そしていざ開始。

まずは可能な限り短いところで髪を少しずつ取って結び、ヘアドネーション用に束ではさみで切っていきます。これでベリーショートの状態。私のルームメイトなどは私の髪束を振り回しながら大はしゃぎ(笑)。

ここから椅子に座らされ、20人ほどの友達に囲まれながらバリカンで剃ってもらいます。最初の一剃り(?)が終わると大歓声が上がり、私も私も!と、私の髪にバリカンを入れたい人が順番に剃っていってくれます。

Head shave

私も念願叶ってのことだし、周りの友達も一緒に盛り上がりながら行うので、開始前にあった不安などは一切無くなり、もう楽しくてしょうがない。こうして無事、2ミリほどの坊主になりました

新旧ルームメイトたちと
参加者全員での集合写真

ファンドレイジングも友達同士で参加者のページに寄付したり、当日現金で募金箱に入れていったりと全体的にかなり上手くいったようでした。

メリットだらけの坊主生活

最初の数日間は自分で鏡を見るたびにまだ目が慣れないことに気付くのですが、すぐに坊主であることの楽さに気付いていきます。

確かに頭がとても寒いことは確かなのですが、私のTOKの先生が自分で編んで参加者全員に配ってくれたニット帽のおかげで対して気になることはありません。そしてとにかく頭を洗ったり乾かす作業にほとんど時間が必要なくなり、髪を結んだりする必要も邪魔になることもない。

そして短いからこそ1週間単位で髪の伸びが確認でき、日常の楽しみが1つ増えたと同時に「私も少なくとも髪だけは成長してる」という小さな自己肯定感につながりました。

また、剃ったことによって自分の頭の形がおどろくほどきれいな卵型であったことにも気付き、周りからも「前の髪より似合ってる!」と言ってもらえるようにも。そして友達はみな私の頭を触って楽しむのですが、なんだか自分が何もしなくてもエンターテインメントを提供できているようでこっちが嬉しい。

その後伸びてきて広がって大変なことになるかと思いきや、私の場合はとても収まりがよく、髪型を確認するたびに「前より伸びて良くなってる!」というプチ満足ができました。数か月前などの写真を振り返ると「短っ!」とお世辞にも良い髪型とは言えないのですが、現状は常に「前より良い」状態だと思っていられる、なんとも幸せな人間でいられました。

なので、8カ月近く経つ現在に至るまで1ミリも後悔をしたことはありません

ただ、では今もう一回やるかと聞かれると別問題。ACという特別な環境だからこそできたことですが、正直もっと広い社会では自信がありません。

そしてもう1つ、少し自分で残念に思っているのは剃った当時日本の友人や家族には一切伝えなかったこと。特に前の学校の同級生に関しては、本当は堂々と発表したいものの、よく考えた上で秘密を通してしまいました。

それも、彼らは毎日顔を合わせていても私はオンラインでのコミュニケーションしか取れない中で、このかなり衝撃的な事実に対して万が一あらぬ噂などを立てられて広まってしまったら私には何もコントロールできません。冬休みには帰国しなかったものの夏に帰国する際、私のほぼ唯一と言っていい所属コミュニティからも突き放されてしまったら私は日本での居場所が無くなってしまう、という考慮でした。

それでも、日本社会への働きかけが私の目的の1つでもあるので、ショートぐらいの髪型になった今から、私のこのポジティブな体験を積極的に伝えていきたいと思っています。


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