【UWC体験記㉓】夏休みーEE(卒論)執筆・IA(レポート)の実地調査
1年目が終わり2年目が始まるまでの夏休みは6月中旬から8月末までと、2カ月以上。ちょうど同じタイミングで親がアメリカ転勤になり日本には帰れません。
特に知っている人もいないので遊ぶ予定などは一切入らないのですが、IBの科目でいくつか夏休み中にやらなければいけなかったことをご紹介します。
国際政治IAの実地調査ーカリフォルニアの子供の貧困
IAとはどの教科でもある自由レポート課題のことです。自由とは言っても調査形式や書く形式は教科によって決まっています。
国際政治では、1つの国際問題を取り上げてそれを自分の地元で実際にEngagement(その問題に対する活動)を行い調査結果をまとめるというもの。
本当は地元ではないのですがアメリカでやるしかないので、私が住むカリフォルニアで実際に今問題とされている子供の貧困について、NGO・NPOの役割を調査することにしました。
私が行うことにしたEngagementは2つ。1つ目は近くのNPO団体が運営している貧困家庭への支援を行うセンターでのボランティア。2つ目は子供の貧困解決に取り組む他のNGOのディレクターの方へのインタビュー。これに加え、公共政策研究所の研究員の方にメールでの質問回答をいただきました。
貧困家庭の子供向けサマープログラムでのボランティア
近くにあるセンターで4週間のサマープログラム中、週3日ボランティアを行いました。貧困家庭向けで参加料は無料、ほとんどがメキシコ移民などラテン系の家庭の子どもたちでした。チューターとして子供たちに勉強を教えると聞いていたのですが、いざ始まると大半は遊び。
参加者が新小1から中1までと年齢の幅が広すぎて、勉強らしきものはそもそもとてもやりにくい。なので各自が読書をしたり、全体で簡単な理科実験をやったりとどちらかというと夏休み中の子供たちの子守兼暇つぶしだなと感じました。
そしてこのプログラム中で簡単な軽食も出るし、文房具やノートといった学用品も支給していました。学力向上や学校で遅れてしまっている子供たちの塾代わりには一切なりませんが、確かに子どもたちへの食べものや安全な場所などを、夏休み中に学校の代わりに提供できていることは見て取れました。
特に小さな子どもたちは人懐っこく私も仲良くなれとても癒され楽しかった4週間でした。
1つ印象的だったのは1人の子供がカタログらしきものを持って小さなプラスチックのおもちゃを売っていたこと。最初は私は遊びだと思い、「どれか欲しいものある?」と聞かれ適当に「これ!」と答え近くにあったおもちゃのお札を渡したころろ、「違う、本当のお金がいるよ」と言われびっくりしました。
NGOディレクターへのインタビュー
そして実施したのは他のNGOのディレクターへのインタビュー。こちらでは低所得層の家庭の納税のサポートなど現状の政府のシステムが低所得者にかかる負担を軽減するような活動をしています。
子供の貧困の原因、そして政府ができることの限界、NGO・NPOだからできることなどを詳しくお聞きすることができました。ここで子供の貧困とは本当は親の貧困であることから根本解決するためには大人の貧困の解決しかない、ということを伺いました。
追加リサーチ・執筆
NGO・NPOの視点は探ることができましたが、反対の視点をいれるために公共政策研究所に問い合わせ政府の立法によりできることを伺いました。ここで分かったのは、やはりNGO・NPOがいくら貧困を緩和できても、政府が適切な政策を導入しなければ長期的な解決はないということ。
しかし、政府は巨額納税者である富裕層の意見に偏りがちであり、よってそのような低所得層のための政策はなかなか通りにくい。これによってさらに富の格差が広がってしまい、低所得層はなかなか貧困から抜け出せず子どもの貧困もなくならない、ということを社会的再生産理論を用いて分析しました。
そしてこれらのデータや情報を用い、新学期に学校に戻ってから2000語以内のレポートにまとめました。
文化人類学IAの実地調査ー在米日本人は日本人とばかりつるむ?
文化人類学でのレポートは少し変わっていて、実際に人類学を自分で実施してみる過程が重視されています。
よって自分が夏に過ごす場所の周辺でリサーチターゲットとなるグループを定め、テーマを決めます。私はまだ一度も行ったことの無いアメリカに行くため、あまり想像が付かなかったのですが、少しでも自分らしさを出すために在米日本人の人間関係について調査することにしました。
本来は人類学というと同じ環境で共に暮らしたり観察したりを通してその人たちについて深く調べるのですが、そもそも同じ環境には住むことになる上観察をするのも少し変なのでこのレポート課題ではほぼみんながインタビューやアンケートといった手法を選んでいました。
夏休み前に自分が実施する調査形式を企画書のようなものにまとめ、自分の先入観やバイアスなどの可能性も検討した上で文化人類学を取っている生徒全員の前で発表しあいます。お互いにフィードバックを行い、夏休みに実際に実行、という流れです。
インタビュー
親が働いていた日本の会社の支部がアメリカにあったことでそちらの他の日本人の社員の方々に協力していただき、8名にインタビューを実施しました。
日本人と日本人以外を比べるとみな日本人の方が心地が良く友達が多い、というのは想定通りだったのですが、それが「なぜ」なのかについて詳しく聞いていきます。
すると少し出てきたのは私もUWCに行ってから大いに感じたような価値観の違いによる外国人への違和感。例えば、仕事でも平気で遅れてくる、気遣いがない、謝らない、など社会人とのしてのマナーや上下関係が重視される日本社会では無いことに多少なりともいらだちを感じた方が多い。
ここまでも想定内だったのですが、インタビューの最後の方、興味深いことに少し気付き始めます。
雰囲気も柔らかくなってきて色んな個人的なエピソードも話してくれるようになった社員の方々の中で、次第にアメリカ社会の良さへの羨ましさを語ってくれる方が何人かでてきたのです。
「きちんと思ったことはお互いに伝えあえる」「上下関係が厳しくない分仕事が効率的」「心が落ち着いている」「自分の趣味も大切にすることが推奨されている」といった日本には無いアメリカ社会の優れているところを挙げ、「日本社会はどんよりしている」と話される方も。
その一方で「自分は日本人だから」と自分自身もそのアメリカ社会の「良さ」に慣れ、染まっていくことに抵抗がある方が多い。この面でも不満がたまり、他の同じような思いをしている日本人とあえてアメリカ社会についての愚痴を言いあう。
実はこの「嫉妬」も、在米日本人を他の日本人と強い結びつきを持たせる原因なのではないかと面白い考察ができました。
EE(卒論)ー少女兵を文化人類学の視点から
EEはExtended Essayの略で、IBの6科目とは別でもきちんと成績が最終成績に入る、4000語以内で書く論文のこと。
基本的には自分のHLの科目のうち一つを選び、その教科を教える担当教員が付き、書いていくことになります。私は文化人類学を選びました。
テーマ決め
まずはテーマ決め。これに関してはその科目関連であれば本当になんでもいいのがEEの楽しいところです。EEはIAとは違い実地調査は行わず基本的に文献を読んで自分で考察や分析を行い執筆するもの。どこに住んでいてもできるので、せっかくなら何か日本の特異な風習について調べて書いてみたいと思っていました。
そして思い浮かんだのが日本の部活動で経験した厳しい上下関係。もう少し広げて、日本社会での上下関係について調べてみたら面白いんじゃないか、と考え一旦問いも立てます。
そして6月にやってきたEE Day1日目。2日間EE Dayと言って同じ科目のEEを書く人たちと一緒に担当教員のガイダンスを受けながらリサーチを始め少し書き始めようという時間です。
ここでリサーチをしてみるのですが、日本語でも英語でも日本の上下関係についての人類学書は見つかりません。そしてまたよく考えるうちに、せっかく自分で自由にテーマを選べることなので、もっと何か意義のある本当に興味のある研究をしたい、と思うようになりました。
そして24 Hour Race(人身売買に対するチャリティレース)に携わっていたことから、私がその頃興味のあった子供たちの戦争体験について、特に子供兵たちについて深く知りたいと具体的なテーマを探します。そしてシエラレオネの内戦の際に大量の子供たちが兵士として使われていたことを知り、人類学の視点で書かれた研究所などを読み始めました。
すると、特に興味深かったのが「女子も男子とあまり変わらない数の子供が兵士として使われていたが、世間ではそのイメージがほとんど無い」という事実。
そこで、「シエラレオネ内戦で戦った少女兵の戦争後の社会復帰はどの程度実現したのか?」という問いに決定したのがEE Day2日目の終わり。
本来はテーマは決めた状態でこの2日間を始める予定だったのですが、私は全てのリサーチや執筆作業が夏休みの宿題として1人でやらなければいけないことになりました。
執筆
そして夏休みが終わる1週間前が提出期限とされたドラフトを夏休み中に書いていきます。これほど長い論文はもちろん書くのは初めてだった上、全てのリサーチを大量の文献からまとめることに苦労しましたが、最後の2週間ぐらいを丸々使い何とか仕上げます。
調べていくうちに次第に明らかになったのは、いかに少女兵たちが見落とされ、誤解され続けてきたかということ。一般的に少女兵たちは戦闘活動ではなく兵士たちの「妻」のような役割や料理や看護などを担当していたと思われがちで、戦争後に少年兵たちは精神的や身体的なケアを国連や外国のNPOなどから受けられる一方で少女たちは見落とされがちなのです。
そして自分の家庭に帰ろうと思っても少年兵の場合は「強制的に連れていかれた」と「被害者」としてのイメージを自分でも強調することによって受け入れられることが多い一方で、女子兵の場合にはスティグマがより大きく、家族からも突き放されたり帰ってきても自分の過去はひた隠しにしなければいけない。
これも全てがシエラレオネで存続する家長父制により、女子の存在価値が、結婚し子供を生むことだと信じられていることが原因にあります。リサーチを続けるうちに、私はこのような社会制度により未来を否定されてしまうような子供たちの手助けをしたい、と行動を起こしたくなるようでした。
これらを人類学として社会主義フェミニズムと構造化理論を使い分析します。内容としては国際政治のEEのようですが、これを人類学としてやる面白さは、人類学はこういった大きな社会問題でも個人の経験に注目し、社会の構造などから読み解くこと。国際政治ですと政策や国際関係からもっと大きな視点で分析するのですが、私が興味があるのはそこでは無い。これに気付くことも出来ました。
夏休み後には担当の先生からアドバイスをたくさんいただき、またかなりの追加リサーチ、そして直しをしてやっと最終提出となりました。最後には担当の先生にも褒めていただき、自分でも満足の行く内容のものが書けたと思っています。
新学期が始まりびっくりしたのは、夏休み中に30個ほどの文献(本・論文等)をひたすら読みまくったことで長文の読解力が自分で分かるほど上がったこと。今までだと論文などを授業で読む度に分からない単語が出てきたり文章が難しく感じたりしてとても時間をかけないと頭に入って来ず、ネイティブの同級生たちに比べるとどうしても差を感じていました。
それが本当に急に!すっと内容が頭に入って来るようになり、試験の練習でも出題資料の読み込みに今までとは見違えるほど時間をかけなくなりました。
大学調査
そしてもう1つ大きなタスクとしていたのは出願するアメリカの大学の検討を付けること。せっかくアメリカ国内にいることもあり、複数の大学見学を行いました。
この時期にかなりもう出願する大学は決めなきゃ、と焦っており、いろんなリサーチをして出願する大学のリストも決定したつもりでいました。
ただし、この後年末の出願までに何度もこのリストは変えることになり、12月の頭に作った最終版は夏休みの時のものとはほぼ完全に違うものになりました。
こうして長い夏休みは終わり、少々憂鬱な気分で「本当に大変だから」と何度も1つ上の学年の人たちから忠告されて来た3rd term(2年目前期)へと突入していきます。