先立って行われた論告はこちら。
弁論
弁護人が書面を読み上げる。まず、なぜ現場にいないはずの被告が犯人とされたのか。現場近くで被告の保険証を持つ男性が職質を振り切って去ったが、後からわかったことでは被告は前科があり「怪しい」。なにより、男性を取り逃したのは警察の失態であり、カバーするために被告を逮捕しなければならない。ところでその保険証は被告が失くしたもので、その男と被告は別人だった、というのが弁護側の主張である。
DNA鑑定は捏造か
検察の最大の証拠であるDNA鑑定への疑問が述べられる。弁護側によれば、保険証から目星をつけられた被告のDNA型は前科前歴からわかっているので、警察は現場に血痕証拠を「作れば」、強力な証拠をもって被告を犯人にできる。
防犯カメラの不審点
DNA以外の証拠は被告を犯人とするストーリーに沿うように用いられ、沿わないような証拠は隠された、と弁護側は言う。
侵入は可能か
被告を連続事件の犯人にした上で検挙すれば、職質で取り逃した失態をカバーするどころか手柄になるだろう。そこで、捜査側は隣接するビルで起きた事件について実現不可能と思われるような侵入経路のストーリーを作り上げている、と弁護側は言う。
つまり弁護側によれば、この事件はそもそも「連続事件」ではなかった可能性がある。
雨イジングスパイダーマンはいない
捜査員の考えるような「雨イジングスパイダーマン」などいなかった。それはミスのカバーと功名を焦った捜査側の作り出した虚像であり、偶然をきっかけに被告と結びつけられ、マスコミへのリークを前提にした逮捕劇となった、と弁護側は言う。
無罪の主張
弁護側は鑑定結果それ自体を捏造だと言うよりも幅を持たせ、鑑定結果に至るまでの過程に疑問を呈した上で、このDNA型鑑定を基礎として組み立てられた検察側の証拠セットの存在を「あり得ない」とする。被告の獄中便りも長い連載の間に、各証拠の不十分さの指摘から、DNA型鑑定を基礎とする証拠セットの存在をどう考えればいいのかという方向へ向かっている。
この事件で被告の無罪を主張することは、検察の各証拠が不十分だと指摘することだけでなく、「捜査側が故意に証拠を捏造した」という告発を含んでいることになるだろう。
意見陳述
この後、被告人が意見陳述を行なったがいずれ本人が「獄中便り」に全文を掲載するとのことでもあり、概略にとどめる。
「逮捕されたとき、わけがわからなかった。今もやはりわからない」という言葉に始まり、やったかやっていないかに関わらず自白すれば早期解決し、否認すれば不利益を被る「人質司法」を批判し、「否認事件では保釈も許されず、裁判は長引き、そのうえ無罪判決の可能性は0.1%である。やったと言った方が得だ。だから冤罪はなくならない」と述べた。
納得のいく弁護を受けられない逮捕者が孤立しがちな状況は更生にも繋がらないとし、「釈放後は未決拘禁者や支援者をサポートする事業を起こしたい」と述べた。実際、獄中で全国の未決囚と手紙でやりとりして相談に乗ってきたという。
また、家族や友人達の陳述書を10数通にわたり紹介し「やっていないと信じてくれる人達がいる。「やっていないことをやったとは言えない」と述べた。
そして「自分は無罪だが、もし有罪だと言うなら、自分は何年も周りに嘘をついていたことになる。そんな極悪人は一生刑務所に入れた方がいい。しかしこの罪状には上限がある。有罪の場合、未決勾留の参入はいらない。上限である10年の懲役を求める」と締め括った。
弁護人が慌てたように立った。
裁判官が判決の日時を1ヶ月後の9月6日と定め、閉廷となった。
(雨イジングスパイダーマン事件裁判【5】第14回公判 被告人質問 につづく)
被告の情報:Instagram「獄中便り」(ハッシュタグ #雨スパグラム)
担当/事件番号:刑事係7部/令和元年(わ)3108号等