(2005)トリスタン・ツァラ『雲のハンカチ』全訳

トリスタン・ツァラ『雲のハンカチ』全訳(リンク先:グーグルドライブ)

初出:『Cirque Tzara』02(2007)、その後抜刷り(2012)

以下、抜刷り版の前書き

『雲のハンカチ──15幕の悲劇──』はダダイズムの始祖でもある詩人トリスタン・ツァラ(1986-1963)の1924年作の戯曲である。パリの芸術界でパトロン的役割を果たしていたボーモン伯爵という酔狂人が、「パリのソワレ」と題し、当時の最先端の芸術を集めて一大フェスティバルをプロデュースした際に、エリック・サティやコクトーらの作品と並んで出品された。
 ツァラ本人による演出プランは当戯曲の冒頭を読まれたい。俳優からスタッフまでが観客から丸見えである・役名は俳優の実名で通される・ストーリーの進行に「註釈」をつけるパートの設置など、当時として斬新な演出であった。『天井桟敷の人々』の泥棒詩人役で今日も親しまれる、若き日のマルセル・エランが主役を張った。
 祭のあと、当戯曲は隣国ベルギー、アントワープの『セレクション』なる雑誌の別冊として刊行されたが売れ行きは伸びなかった。翌年、パリの「サイモン画廊」が版画と組み合わせた美術書として、全冊サイン入りの豪華版として発刊した。そのうち一冊は東大図書館で閲覧することができる。当バージョン『雲のハンカチ』は大切にしまわれ、一般に普及には至らなかった。
 1972年、アイリーン・ロビンス氏なる女性がアメリカの演劇雑誌『TDR』に英訳を掲載した。当冊子はこれを底本の一とする。また、ハンガリーで出版されたとの記録が残っているがその存在は不明である。
 90年代の「書肆山田」の近日刊行告知を見ると宮原庸太郎氏訳『雲のハンカチ』がリストに挙げられているが、刊行には至らなかったらしい。
 2006年、当時多摩美大生の築野友依子氏が刊行したツァラ研究誌 『CirqueTZARA』02号に筆者訳の『雲のハンカチ』を寄稿した。
 現在購入できる『雲のハンカチ』は、ツァラ研究の世界第一人者アンリ・べアール氏の編集したツァラ全集に収められたフランス語版のみである。当冊子はこれをもう一つの底本とする。
 なるべく多くの人が戯曲に触れ、フランス文学畑プロパーの/演劇畑プロパーの専門家に想像もつかない解釈をやっつけて欲しいとの願いから、当戯曲を冊子化した。
 舞台化としては、初回の1924年の他、カナダとアメリカの学生が上演したとの記録が残っている。また、2007年、当時阪大学生であった安武剛氏率いる劇団「トイガーデン」が『ハンカチ、雲の』と題して改作を上演した。
 なお、筆者が『雲のハンカチ』訳出にあたって鬼のように紡いだ訳注の痕跡は今回全て排除した。ご覧になりたいかたはご連絡頂ければ幸いです。

 2012.06.10
 山本桜子

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