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表舞台に立つのはお菓子を製造する人たち。私は黒子に徹して支えるだけです

千秋庵製菓が北海道コンフェクトグループの一員になり、グループの1社「きのとや」の製造部門を担当するKコンフェクト株式会社から土門光弥(どもん みつや)さんが出向となり、2023年9月に千秋庵製菓の製造部部長に就任しました。土門さんは現在、次世代の育成と製造部の改革に尽力しています。今回の【一日千秋】では、土門さんにこれまでの経歴や現在進行中のお仕事について詳しく伺いました。

【プロフィール】
土門 光弥 (どもん みつや)
出身地 北海道札幌市
1987(昭和62)年 ソフトウェア開発会社 東京支社 入社
1991(平成3)年 株式会社きのとや 入社 販売部 白石店 店長代理
その後、販売部、製造部、宅配部を経て、
2016(平成28)年 株式会社BAKE 工場出向
2018(平成30)年 Kコンフェクト株式会社 製造部部長
2021(令和3)年 Kコンフェクト株式会社 総務部部長
2023(令和5)年 千秋庵製菓株式会社 出向 製造部部長(現職)


これまでの歩み

― 土門さんのこれまでのご経歴についてをお伺いします

土門:私は札幌生まれ、札幌育ちです。学生時代は特にやりたいことが見つからず、ソフトウェア開発の専門学校を卒業後、札幌に本社があるソフトウェア開発会社の東京支社でシステムエンジニアとして4年間勤めました。当時、パソコンはまだ一般的ではなく、私はオフィスコンピューターのOSやソフトウェア開発を担当していました。バブル経済の全盛期でしたが、バブル崩壊と共に会社が倒産の危機に瀕し、私は札幌の本社に戻り次の職を探し始めました。その頃、地元で人気のケーキ屋さんにケーキを買いに行きました。それが「きのとや」でした。日曜日にも関わらず店内は大変混雑しており、店員さんたちは活気に満ち、生き生きと働いていました。そこで私は接客業に魅力を感じ、株式会社きのとや(現 Kコンフェクト株式会社)での販売職への転職を決意しました。

― システムエンジニアからいきなり販売職とは…。全く違う職種への転身ですね

土門:そうですね。幹部候補生としての募集で、右も左も分からなからない状態でしたが、店長代理を務めることになりました。きのとやでは、幹部候補生として入社すると、3年ごとに様々な部署を経験します。販売のみならず、製造や配送など、管理職として必要な知識を身につけるために多岐にわたる仕事を経験しました。販売でも製造でも、将来管理職を目指す人は多様な部署を経験します。

きのとや店舗に飾られていた粘土細工の実物。様々な経緯で土門さんが所有していた。
タイトルは、「いらっしゃいませ。きのとや店員のみなさん」(1993.6.29-8.12)

土門:私は合計34年間勤務しており、そのうち販売で10年、製造で10年、宅配で10年を過ごしました。その後、株式会社BAKEの製造工場立ち上げのために1年間出向し、その後Kコンフェクトの製造部に戻りながらも、半年間は総務部長を務めました。宅配部門では、生ケーキを個人宅に配送していました。私が宅配部門にいた頃は、インターネット注文が普及する以前のことで、平日は300件、週末は500件の配達を8人で分担し、私は配送の割り振りとスケジュール管理を担当していました。

― Kコンフェクトの製造部ではどのような仕事をされていたのでしょうか?

土門:製造部では、製造スケジュールの策定、資材の調達、原材料の確保、発注などの生産管理を担当していました。そのため、私自身が直接製造に関わる作業を行っていたというわけではないのです。
生産管理や発注管理の経験を積み、その経験を活かして焼き菓子の「札幌農学校北海道ミルククッキー」の生産ラインの構築にも携わりました。生産ロスを減らし、効率的に大量生産できる体制を整えることが私の役割でした。例えば、お盆期間に製造スタッフが不足するといった場合には、その状況に応じて調整を行うなどの対応をしていましたね。

焼き菓子「札幌農学校」シリーズ
左上:北海道ミルククッキー、右上:酪農焼きチーズクッキー
左下:開拓の詩、右下:酪農バウムクーヘン

千秋庵製菓へ出向の経緯

― 土門さんはKコンフェクトから千秋庵製菓へ入社(出向)と伺いました。ここで、「きのとや」と「Kコンフェクト」の関係ついて教えていただけますでしょうか?

土門:「きのとや」は社名を「Kコンフェクト」に変更しました。しかし、長くお客様に愛されてきた「きのとや」ブランドは、販売部門としてその名を残しており、「Kコンフェクト」は製造、開発、品質管理を主に行っています。私は「Kコンフェクト」から千秋庵製菓への出向となり、出向期間については特に決まっていませんが、ここに骨をうずめる覚悟で取り組んでいます。

― 千秋庵製菓へ出向が決まった時の心境を伺えますか?

土門:会社から千秋庵製菓への出向を命じられ、さらに着任するポジションが製造部部長という重職であることを知った時は非常に驚きました。巴里銅鑼や生ノースマンの開発がKコンフェクトと共同で進められていることは知っていましたが、その時点では製造部門ではなく総務部にいましたからね(笑)。会社は私に対して、次世代の管理職を育てるという期待を持っていたと感じます。

― 千秋庵製菓に入社後、感じたことは?

土門:会社の建物や設備は相当な年数が経っているものばかりだと感じました。ノースマンなどは比較的新しい設備を導入していますが、山親爺は50年も同じ機械を使っていました。これは本当に驚くべきことです。車でさえ10年ですし、いくら丁寧に機械を扱っても、頑張っても20年が限界だと思います。非常にシンプルな構造の機械ですが、50年間も修理しながら大切に使い続けるとは…。本当に素晴らしいことです。
最近、山親爺の製造ラインに最新設備が導入され、その機械は使命を終えましたが、長年にわたる製造への貢献に感謝の意を表します。

50年に渡り製造に貢献してくれた山親爺の焼成機

現在の取り組み

― 現在、千秋庵製菓で取り組んでいることについてお伺いします

土門:私が取り組んでいるポイントは大きく3つあります。
第1のポイントは製造の効率化です。ここで働く人たちは、従来の方法を当たり前だと思ってやってきたわけですから、そこに効率的ではない無駄が生じていても気がつけません。そこを明確にして効率化するために、時間やコストを数字で可視化する段階にあります。

ここで問題なのは製造ロスです。製造工場での「探す」と「歩く」は最も無駄な行為にあたります。例えば、製造に必要な道具を探すことには付加価値がありません。道具が手元にあり、それを使用して作業を始めた時に初めて付加価値が生じます。探すことは生産ロスに繋がります。また、歩くことも同様にロスです。「今、ここで全ての作業を完結させる」ためには、導線の整理が必要です。あちこち歩いて物を取りに行くことは全て無駄です。必要な物だけを置いた環境を整えることが重要です。ここは時間をかけて丁寧に行いたいと考えています。

第2のポイントは歩留まりの改善です。歩留まりとは生産性や利益率を明らかにするうえで重要な指標です。たとえば、充分な量の良品を製造できていても、歩留まり率が低ければ不良品が多く生じてしまい、無駄なコストが発生してしまいます。現在、担当者と共に協力して改善に向けて動いているところです。

大量生産が可能になった最新の山親爺焼成機
焼成後スクレーパーで製品を鉄板から剝がす
製造工程を確認し、ロスにつながる問題があれば調整を加える

土門:第3のポイントは製造工程の改善にあります。これを達成するためには、現場の作業内容を把握し、オペレーションを見直し、製造工程と作業フローを改善する必要があります。
例えば、「この作業は絶対に必要だ」と考えていると、作業に必要以上の時間がかかっていても気づきにくいものです。日常化してしまった問題点を発見し、少しずつ改善を加えて効率を上げています。

ここで重要なのは、単に「この作業は不要だ」と指摘するだけでなく、作業者がその不要性を理解し、納得することです。全員が納得した上で不要な作業を止め、改善を進めることが必要です。そうしないと、単なる命令と感じられてしまうでしょう。
「部長が言うからやめた」や「あの人がやったから私は関係ない」という状況を避けるためにも、納得感を持ち、自発的に「これがベストだ」と感じることが重要だと考えています。

ですが、従来の方法から脱却するには、相応の時間を要すると感じます。長く続けてきたことほど、変化への抵抗があるのは、自然なことです。

― 納得してもらうために、どのような方法をとっていますか?

土門:「これって面倒くさい?」とか、「大変そうだね?」とか、共感を込めて尋ねて、「それでは、この方法を試してみませんか?」と提案します。実際に試してみて、もし元の方法の方が良ければ、また元に戻せばいいのです。少しずつ、そうやって試しているんです。お互いに納得して、「じゃあ、ここを動かしてみましょうか」となれば、皆で協力して動かしていきますね。

― 確かに…。客観的な指摘がなければ、自分たちでは気づけないかもしれませんし、気づいても一人では変えるのは難しいかもしれませんね

製造ラインを見回り、ちょっとした不具合があれば対応する
調整を加えることでよりスムーズに稼働するようになった
工場を巡回し、調整を加えた箇所を点検する
スタッフと話したり、トラブルに対応できるように現場に常に顔を出す

― 土門さんの現在の取り組みには、システムエンジニアだった経験が活かされているように感じます。問題を洗い出して整理し、再構築するといった経験といいますか…

土門:自分がシステムエンジニアだったことはすでに忘れてますけどね(笑)。プログラミングにおける「バグ」はよく耳にする言葉ですね。プログラムがバグを出さないように、「もしこうしたら、こうなる」とか「こうしなかったから、こうなった」といった可能性をすべて考慮に入れる必要があります。「この状況ではこうする」という処理をプログラムに組み込んでおかないと、その状況になった時に動作しなくなります。それがいわゆる「バグ」です。ですから、すべての可能性を網羅してプログラムを作成しなければ、プログラムは成立しません。こうしたプログラミングの経験が、おそらく私の思考方法にも影響を与えているでしょうね。

― 製造スタッフとのコミュニケーションはどのようにされていますか?

土門:私の役割は、会社と現場の間の橋渡しをすることです。会社の方針をわかりやすく伝え、皆が理解し行動できるようにするのが私の役目だと考えています。

私が心がけているのは、「相手が構えないようにする」ことです。こちらから積極的に話しかけることよりも、相手が自然と話しやすい柔らかな雰囲気を作ることを重視しています。出向してきた当初は外部から来た人間として警戒されていましたが、時間が経つにつれて、私に対する不安は徐々に解消されてきたように感じています。

毎日、工場の各フロアを巡回し、様々なフロアに顔を出すようにしていますが、特に意識しているのは、ただ、現場に控えめにそっと存在する…ということです。スタッフには暇そうに見えるかもしれませんが、いつでも気軽に話しかけられる雰囲気を作っています。それがどのように受け取られるかは、相手によりますね。実際のところ、どうかはわかりませんが(笑)。

― 土門さんが話かけやすいように心がけていることが、この記事で従業員に伝わるといいのですが…

土門:確かに、上司が「気軽に話しかけて」と言っていても、「本当に話しかけても大丈夫かな?」と不安に感じることはありますね。私自身が「いつでも歓迎だよ」と思っていても、その雰囲気が伝わらないこともあるでしょう。ただ、最初の頃に比べれば、皆さんかなり積極的に話しかけてくれるようになりました。たいていは何かが壊れたり、電気がつかないといったことですが(笑)。

「設備のメンテナンスとかもやってますよ」と土門さん

仕事への姿勢・やりがい

― 日頃の仕事のなかで大切にしていることを伺えますか?

土門:私は製造者ではありませんので、常に裏方として、黒子に徹して行動することを大切にしています。表舞台に立つのは従業員、お菓子を作る人たちです。それぞれが無理なく、楽しく働ける環境を整えることが、私の役割です。これは、Kコンフェクトで製造部長を務めていた時から変わらない考え方ですね。

― 従業員が表舞台だという考えは素晴らしいですね

土門:これは北海道コンフェクトグループの長沼会長がよく話していたことです。会長は、店で働く人々を女優に例えました。常に笑顔で接客し、輝いているように振る舞うこと。それを意識してほしいと言っていました。「舞台に立つ女優だと思って」と。

― そのように言われると、自然と背筋が伸びますね

土門:工場であれば、お菓子を作る人たちが実際の表舞台に立つ人たちです。私は、道具や環境を整え、作業がスムーズに行えるよう支援する裏方です。皆さんが作ったお菓子が舞台で輝くのです。

― お仕事のやりがいや、仕事をしていて嬉しいと感じる瞬間は?

土門:実際に現在取り組んでいる改善策の成果が具体的な数字として表れ、会社の利益に直結していくことが確認できたときは、大きなやりがいを感じますね。
さらに、作業改善に関しては、数字には現れないものの、実際に使用する人たちが喜んでくれることは非常に嬉しいものです。作業が楽になったと感謝されたときは、特に喜びを感じますね。

― 大変だと感じることはありますか?

土門:これは考え方次第だと思いますが、私は常に100%ポジティブに考えるようにしています。辛いと感じないように…何に対してもです。だから、いつも楽しんでいます(笑)。「いつも楽しい!」、そう感じられない時も、そう思うように心がけています。ネガティブな言葉は使いません。ネガティブは伝染すると思うので…。隣で誰かがため息をついていたら、自分もため息をつきたくなりますよね。そういう雰囲気に飲まれないようにしています。

― 100%ポジティブと断言するのは素晴らしいですね!

土門:ええ、まあ、いろいろあっても、そう思うように努めているということですね(笑)。

これからのこと

― これからチャレンジしたいことを教えてください

土門:製造部門としては利益を上げることが必須です。そのためには、利益を生み出すプロセスを明確に説明する必要があります。会社の方針を分かりやすく現場に伝え、全員が納得するように説明し、その理解を基に行動を促します。現場の様々な問題に動じることなく、冷静に対応し、従業員の小さな相談や不満にも耳を傾けていきたいですね。
それから、業務上、北海道コンフェクトグループの企業の中で最高の利益率を達成することを目標にしています。コスト削減に焦点を当て、特にロス削減の改善に力を入れたいと思っています。

個人的には、今年はぜひソロキャンプに行きたいと思っています。実は2年前にすでに道具を全て揃えていたんです。去年は色々な言い訳をして結局行かなかったんですよ…。真夏は暑いなどと理由をつけて避けていましたが(笑)、行く人は真夏でも真冬でも楽しんでますよね。私も、今年こそはソロキャンプデビューをして、一人の時間を楽しみたいと思っています。
あと、休日は愛犬とほとんどドッグランに行って癒されていますね。

愛犬とドライブ中の土門さん

― 最後に、製造の仕事は、地道にコツコツと行う作業が多いと思いますが、スタッフへメッセージをお願いできますでしょうか

土門:商品を作る際には、エンドユーザーであるお客様のことを考えることが重要です。製造が完了し店舗に並べた時点で仕事が終わったと思うのではなく、お客様がその商品を手にとって「美味しかった」と感じるまでが私たちの仕事だと理解してほしいのです。
仕事を続けていれば、そういった感情にやがて達すると思います。新入社員の頃は、目の前の仕事に集中していると思いますが、続けていくうちに、一歩引いて物事を見ることができるようになるでしょう。そうなれば、お客様のことを深く考えられるようになると思います。
「これを食べてみて!美味しいよ」と自信を持って家族や友人におすすめできるような商品を一つ一つ丁寧に作っていただきたいです。そうすれば、必ずお客様にも喜んでいただけると信じています。

|編集後記|
土門さんは、論理的思考とユーモアに溢れており、質問にも非常に親しみやすく答えてくださいました。何が起こっても100%前向きに捉え、「いつも楽しいです!」という積極的な姿勢から、多くを学ばせていただきました。今後ともどうぞよろしくお願いします。