【パッケージの変遷】空に浮かぶ小熊がトレードマークの『バター飴』|よもやま菓史
北海道民にとって「札幌千秋庵」のイメージというと、多くの方が「山親爺のCM」を思い浮かべるかもしれませんね。
「山親爺」とはヒグマのことを指す愛称で、テレビCMではスキーをする親子の熊が登場し、2024年3月にリニューアルされた新しいパッケージにも雪山を滑る熊が描かれています。
山親爺のみならず、「北海道と言えば熊」というイメージが定着しているため、北海道産商品には熊のキャラクターが多く使われています。そんな北海道を象徴する「熊」ですが、札幌の千秋庵には、「熊」のイラストが特徴的なもう一つのお菓子があることをご存じでしょうか?
「小熊のプーチャンバター飴」
とお答えていただいたあなたは、「札幌千秋庵への愛が深い方」に違いありません(笑)。
それでは、【よもやま菓史#01】では、「小熊のプーチャンバター飴」の歴史を振り返りたいと思います。ゆるっとお楽しみください。
『小熊のプーチャンバター飴』 誕生の背景
小熊のプーチャンバター飴とは、1950年(昭和25年)に誕生した北海道産のバターをたっぷり使って作ったバター飴です。
2009年(平成21年)札幌千秋庵の二代目・岡部卓司は、誕生の背景を当時の雑誌のインタビューでこう答えていました。本人の日誌より一部をご紹介してみましょう。
岡部卓司:「小熊のプーチャンバター飴を発売した頃、千秋庵には1930年から今現在も作り続けている“山親爺”という洋風せんべいが既にありまして、スキーを履いて鮭を背負っている熊のイラストがトレードマークなんです。
ですからこのバター飴を商品にする際、私がネーミングしたんですけど、山親爺で定着している熊のイメージを使って、でも飴ですからね、大人の熊じゃないな“小熊”だな、名前は子豚を思わせる“プーチャン”と命名したのです。そして飴の形もせっかくだからと、熊の顔にしてみたんですよ。」
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「プーチャン」という名前が「子豚」を意味していたとは驚きですね。現在は丸い形の飴ですが、発売当初は熊の顔を模した形で作られていました。
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岡部卓司:「パッケージのイラストはデザイナーの先生にお願いしたんです。そしたら、この何とも言えない小熊が出てきちゃった。
私は『先生、これはどういうイメージなんでしょう?』と思わず聞いたんですね。そうしたら『小熊さんがギターを持って青空を飛んでいるイメージなんだよ』と言う訳です。
私は最初は戸惑ったんですけどね、でもその内に、この宙に浮かんだようなイラストが名前とぴったりのような気がしてきちゃいまして。」
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なるほど…。商品名から「青空に浮かぶ小熊」のイメージが膨らみ、このキャラクターが仕上がったのかもしれませんね。デザイナーの想定外の提案を戸惑いながら受け入れたことで、現在のプーチャンのキャラクターが誕生したようです。
雑誌の取材を担当した記者は、「まるで自分の子どものようにバター飴について熱く語る姿が印象的でした」と話していたそうです。二代目が愛情を込めて作り上げてきたことを物語るエピソードですね。
ちなみに、二代目岡部卓司は創業地である札幌市中央区南3西3に生まれました。創業の地で生まれ、その地でお菓子作りに生涯を捧げ、熱心に取り組んできたことに、あらためて深い感慨を覚えます。
小熊のプーチャンバター飴が市場に登場した当時、牛乳を混ぜたバター飴が主流でした。そんな中で、小熊のプーチャンバター飴は純粋なバターのみを使用し、その透明感と優しい甘さが特徴でした。「空飛ぶ小熊」のお菓子缶も評価され、じわじわと人気を集める商品となっていったのでしょう。
缶から個包装へ
初めは千秋庵製菓の和菓子部門で、干菓子の有平の技術を用いて熊の顔の形をした製品を作っていました。しかし、製造体制の縮小に伴い、現在の丸い形に変更し、持ち運びやすい個別包装を導入しました。熊の形をした飴の印象を保つために、透明な袋を使用し、飴が見えるようなデザインにしました。さらに、より多くのお客様に提供するために、1918年(大正7年)創業で100年以上の歴史を持つ北海道小樽市の飴専門店「飴谷製菓」と製造協力を行い、現在に至っています。
パッケージの変遷
それでは、お菓子の缶のデザインの変遷を見てみましょう。最初のデザインは四角い形ではなく、丸い形をしています。小熊のプーチャン(以下:プーチャン)のキャラクターは現在とはまったく違いますが、ロゴは引き継がれているみたいですね。
その後、デザイナーが描いたプーチャンがお菓子缶に展開されはじめます。
ここからは、お菓子のしおりに掲載された写真を紹介しながら振り返ってみましょう。
小熊のキャラクターの変遷
プーチャンのキャラクターは、徐々にタッチを変えていきながら、昭和中期(1960年代頃)に現在のスタイルに落ち着きました。そのスタイルは、2024年の令和に至るまで変わらず守られています。
特に二代目プーチャンは、筆の風合いが感じられる作品です。どこか温もりを感じさせるプーチャンたち。今見ると、ちょっとノスタルジックに感じますね。
オリジナルグッズに展開
小熊のプーチャンバター飴は、山親爺ほど目立たない商品ですが、実は密かに人気の高い定番の飴菓子です。様々な雑誌に取り上げられ、SNSでは「缶の可愛いお菓子」として投稿が増えはじめました。その影響もあって、ドラマや映画の小道具として、さりげなく画面のどこかに登場するようになっていきました。
たとえば、札幌のテレビ局を舞台にしたドラマや、名建築をめぐるドラマ、カレー作りが得意な主人公が登場するドラマ…etc…さりげな~く登場しています。注意して見ないと見つけられないかもしれませんが…(笑)。時間がある時に探してみるのもおすすめです。
そんなエピソードの多いプーチャンが、オリジナルグッズやLINEスタンプに展開されていることをご存じですか?
一部は既に販売が終了していますが、いくつか紹介したいと思います。
最初に登場したのは、お菓子缶を模した「キーホルダー」でした。その後、ガーゼ素材でプーチャンが刺繍された「ハンカチ」が発売され、その後は「マスキングテープ」や「LINEスタンプ」にもなりました。
振り返ってみると、いろいろなグッズがありましたね…。
2024年(令和6年)8月、待望の新作マスキングテープが登場しました!
以前は他のキャラクターと一緒にデザインされていましたが、新作はプーチャンのソロバージョンです。より缶の印象を再現したデザインになっています。気になる方はお店を覗いてみてくださいね。
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さて、【よもやま菓史#01】は「小熊のプーチャンバター飴」のよもやま話を、ちょっとゆる~い感じでお届けしてみました。いかがでしたか?
このコーナーでは、札幌千秋庵の歴史やお菓子、パッケージにまつわる「アレコレ」をゆるっとご紹介していきますので、気軽に楽しんでいただけたら嬉しいです。