お菓子を作る仕事は楽しい!何気ない会話が楽しい職場で、毎日充実しています。
下田さんは、看板商品「巴里銅鑼」の製造を支える若きリーダーで、新商品開発における重要なレシピ開発も担当しています。この秋の季節限定商品「スイートポテト」は、千秋庵製菓の創業以来の歴史ある商品で、その新しいレシピ開発も下田さんが担当しています。
今回の【一日千秋】では、下田さんに、これまでの経験、現在の仕事内容、そしてプライベートの過ごし方について、いろいろとお聞きしました。
夢だったお菓子づくりの道へ
― 下田さんのプロフィールをお聞きします
下田:札幌の専門学校でパティシエの専攻をしていた私は、幼い頃からお菓子作りの夢を抱いていました。高校生になり進路を考え始めた時、ペットショップでの仕事とお菓子屋さんになることで迷いました。しかし、「食べることは生活に不可欠だから、お菓子作りができる方がいいかな…」と思い、お菓子作りの道を選びました。
専門学校での店舗販売の課題では、毎週自分の好きなお菓子を作り、販売していました。基本レシピや工程は授業で学んだものですが、それを基に自分なりのアレンジを加えてオリジナルのお菓子を作ります。シュークリームやチョコレートやマンダリンのムース、焼き菓子を作り、お客様におすすめして販売していました。購入したお客様がSNSに写真を公開してくれて、それを見つけた時は嬉しかったですね。
― それでは、ケーキ屋さんで修行を?
下田:実は、授業でパン作りを体験したことがきっかけで、パン作りの世界に魅了され、札幌の人気パン屋さんで働き始めました。パン生地の感触はとても心地よくて(笑)。特に生地をこねる作業がお気に入りです。生地の弾力と言葉では表現しきれない香りが、私を幸せな気持ちにしてくれます。
パン作りに憧れてこの会社に入りましたが、配属されたのはお菓子製造部門で、店頭で販売されるシフォンケーキやプリン、マカロンなどを作っていました。
パンの製造職になることも希望できたかもしれませんが、お菓子の製造部門は人手不足で、離れることができませんでした。そのうちに店舗の移転が決まって。アルバイトから正社員へと昇格し、3年間勤務しましたが、自宅から新しい店舗までの距離が遠いため、退職を決意しました。
千秋庵製菓に入社の経緯
― 千秋庵製菓に入社のきっかけは?
下田:パン屋を辞めた後、最初は別の仕事に挑戦しようと考えたんです。飲食業以外の仕事を探していて。事務職に興味がありましたが、パソコン操作が得意ではなくて。いろいろと考えを巡らせるうちに、やっぱり物を作ることが好きだし、製造の仕事が自分には合っていると感じて…。そのタイミングで千秋庵製菓の製造のパートタイムの求人を見つけて入社しました。
製造工場で働いた経験がなかったので、どのような環境なのか興味がありました。最初は正社員になるつもりはありませんでしたが、1年ほど経った後、総務の方から声をかけられ、正社員として働くことになりました。
― 入社後はどのような仕事をしましたか?
下田:入社してすぐ、和菓子課で「干菓子」の製造補助を担当しました。私の役割は完成した干菓子を箱に詰めることでした。実は、その時はじめて干菓子というものを見たんです。今まで経験したことのない製法と、その可愛らしい見た目に「自分で作ってみたい!」という気持ちが湧き上がりましたが、残念ながらその頃には干菓子の生産規模が縮小していました。
その後、正社員として洋菓子課に配属され、月の石、ブッセ、クッキーなどを担当しました。生地の仕込みはしていませんでしたが、洋菓子作りの経験を活かせたと思います。作業がとても楽しく、集中して取り組むことが好きなので、様々な種類のお菓子を時間を区切って製造する環境が自分に合っていると感じていました。
現在の仕事について
― 現在のお仕事を教えてください
下田:現在、製造部洋菓子課の主任として、原材料の発注・管理、製造準備から製造、そして商品が出荷される前の全ての段階をトータルで担当しています。チームメンバーのシフト管理や調整もしています。
製造商品は、通年販売の「巴里銅鑼」、店舗限定の「白夜」を担当しています。現在は、商品開発にも関わっていて、季節限定商品の「スイートポテト」のレシピ開発も担当しました。
巴里銅鑼に関しては、Kコンフェクトと千秋庵製菓が初めてコラボレーションして以来、製造を担当してきました。現在、製造リーダーとして、生地の焼成から生クリームの絞り、商品の組み立てから包装に至るまで、全工程を統括しています。
チームは8人から10人で構成され、焼成と組み立ての作業に分かれています。午前中に組み立てを行い、午後には生地を焼き、一晩置いた後、翌日の午前中に再度組み立てを行う流れです。
製造管理者から製造数の指示を受け、シフトと照合しながら製造スケジュールを調整しています。
▼巴里銅鑼 製造についてはこちらから
― 仕事へのこだわり、自分なりに工夫していることはありますか?
下田:私が特に気をつけているのは、衛生面を含めた商品の見た目の美しさです。常に、仕上がりをきれいに、美しくすることを心がけています。
そのために、最も大切にしていることは材料を大事に、正確な計量を守ること。指定された手順を守らなければ、仕上がりが悪くなりますし、毎日作るお菓子の表情が変わってしまいます。基本を正しく守らないと、お菓子の仕上がりに影響してしまうので…。
― とても繊細な感覚が必要になりますね…
下田:はい…とても繊細で…。巴里銅鑼の製造は、一部の工程は機械化されていますが、大半は手作業です。特に生クリームの絞り方に特徴があり、クリームの美しさやボリュームによって、袋から取り出した瞬間の感動が変わる、見た目が非常に重要な商品です。作業者による見た目のばらつきがないように、均一性が保たれているかが課題です。
― 誰でもができるように、気をつけていることはありますか?
下田:作業をチェックしながら、気になる点があればすぐにアドバイスをするよう心がけています。とにかく実践を重ねて、自分自身でコツを習得することが大切です。
「均一性を保つ」「きれいに作る」というと、単純な作業のように思えますが、基本に忠実に作業することは、実はとても奥が深くて…。
「どうしたら一定の品質を保つことができるか」
「どうしたら技術や感覚を伝えることができるか」
という2つの課題に焦点を当てて取り組んでいます。
生クリームの絞りと同様に、生地の上にあんこを絞る作業にも技術が求められます。薄すぎたり厚すぎたりすると味に影響し、挟む際にはみ出すと見た目にも影響します。非常に繊細でバランスが必要ですね。
巴里銅鑼のチームでは主婦の方々が活躍しており、もともとセンスが良いのか、初めて教えた時からきれいに作成していましたね。
― さすが、家事のプロフェッショナルですね。生クリームをきれいに絞る秘訣はありますか?
下田:そうですね…。「力み過ぎないこと」でしょうか…。きれいにしようと意識して力を入れ過ぎると、手首を痛めたり腱鞘炎になるリスクがあります。
通常は1日約800個を製造していますが、忙しい時には1日2000個以上を作ることも。生クリームの絞り作業は主に私一人で行っており、長時間同じ方法で絞り続けています。
各ポジションで分担して作業してますが、「手が疲れたから交代して!」と気軽に頼める関係があるため、毎日乗り切れています(笑)。
特に厳しいルールは作らず、柔軟に対応することで、コミュニケーションが生まれ、作業者同士が団結できるように感じています。
新商品開発について
― 現在、「新商品開発」では、どういった役割をされていますか?
下田:私の役割は、提供されたアイデアから美味しい味を生み出す…といったイメージだと思っていて…。「こんなお菓子が作りたい」「こんな味を試してみたい」という企画者の意向を汲み取り、「この配合でどんな味がするか」「この食感はどうだろうか」と考えながら、試作品を何度も作り直します。常に、より美味しく、見た目にも美しい方法を探求しています。
レシピ開発は私の担当ですが、商品開発はチームでなければ成し遂げられないので、社内の関係者や製造部門との連携が最も重要だと思っています。
― 最近では、どのお菓子を担当されましたか?
下田:季節限定商品の「スイートポテト」のリニューアルを担当しました。
「千秋庵製菓とスイートポテト」の組み合わせが意外に思われるかもしれませんが、実は1921年の創業以来、一部の原材料が時期によって変わることがあっても、変わらない製法でスイートポテトを販売し続けている歴史があるのです。
今回、私は新しい製法を採用して商品のリニューアルを担当することになりました。
― 歴史あるお菓子のリニューアルを担当した心境はいかがですか?
下田:「なぜ私が…」というのが、正直な感想です(笑)。開発の上司から「既存のレシピを改良して、新しいスイートポテトを開発しよう」と指示されたとき、千秋庵製菓のスイートポテトを食べた経験がなく、戸惑いました。しかし、「この配合を試したい」「この食感を目指そう」という企画者のアイデアに従い、何度も試作を繰り返しました。
当初は、「伝統の製法をどこまで守るか」、「全く新しい味に挑戦するか」という二つの選択肢がありましたが、試作を重ねる中で「伝統の味と新しい味の融合」という方向になりました。形状に関しても変更を考えていましたが、創業以来の「舟形」の伝統を大切にしたいという声があり、最終的に関係部署との議論を重ね「木の葉型のカップで焼く」という方法を採用しました。
下田:味については、通常のスイートポテトよりも和菓子の焼き菓子に近いものでしたが、現代の嗜好に合わせて、もっちりとしたクリーミーな食感へと調整しました。実は、パン作りの技術を少し取り入れていて、パン屋時代の経験が活かせたと感じています。
一番苦労した点は、生地の配合と餡のバランスでした。生地の配合を変えると、生地が緩すぎて固まらず焼き色がつかなかったり、逆に硬すぎて焦げてしまったりと、多くの問題に直面しました。生地に合わせる餡には、焼き芋の風味を活かすためにダイスカットしたサツマイモを加えたり、ペースト状にしたりしながら、一つ一つの問題を丁寧に解決していきました。
味の確定後は、その味をベースにして、大量生産に適した味に改良を重ねていきます。製造現場の負担を増やさないために、現場の担当者と相談しながら、工程を決定していきました。
▼スイートポテトのレシピ開発の様子をご紹介します。
仕事の楽しさ・やりがい
― どういった時に仕事の達成感や、やりがいを感じますか?
下田:予定通りに物事がスムーズに進むと、「よし!」と思いますね。
すべての段階をクリアし、商品が店頭に並ぶとホッと一息つけます。「商品を何とか世に出せた。良かった…」という感じ…達成感よりも「何とか形になった」という安堵感が先行します。
あと、自分が製造した商品の売れ行きは気になるので、「今日どれくらい売れたかな?」と近所の店をチェックすることもあります。「全部売れた!」と思うと、やはり嬉しいです(笑)。
テレビでの取材も受けることがありますが、自分ではテレビを持っていないので見ていません。でも、両親や祖父母から「テレビに映っていたよ」と連絡があると、やっぱり嬉しいですね。
製造チームのメンバーが放送を見て、「映っていたよ」と教えてくれることもあります。家族や周りの人たちが喜んでくれるのを見ると、それがやりがいになっています。
― 仕事が楽しいと思う時は?
下田:現在は、職場の人間関係も良いですし、けっこう充実していて、毎日楽しいですね!
お菓子を作るのが好きなので、作業中はもちろん楽しいですが、休憩時間に皆と何気ない話をするのが一番楽しいですね。もともとコミュニケーションが得意ではなかったのですが、この会社に入ってからよく話すようになりました。
部署によって雰囲気は異なるのですが、私の部署は非常に平和で、皆仲良くしています。一緒に楽しく働こうという雰囲気がありますね。
前の職場は同世代が多かったですが、ここでは年上の方が多く、最初は緊張しましたが、意外と話しやすいんです。上司や各職長をはじめ、皆さんと気軽に話せます。パートの方々も、まるで母親と話しているよう(笑)で、気を使わずに自然体でいられますね。
― 年上の方々に指示する上で、心がけていることはありますか?
下田:敬語を使いすぎず、何でも気軽に話せるようにしています。お互いに言いたいことが言える関係を大切にしています。「何でも言ってください」という雰囲気です。
先にも話しましたが、様々な状況で作業を交代する際には、お互いに支え合うことができるので心強いですね。このような気軽な関係性が、現在の職場の魅力です。職場の楽しさは、やっぱり人間関係が大きいと感じますね。
これからのこと
― これからチャレンジしたいことを教えてください
下田:できれば、和菓子作りに挑戦したいですし、もっと繊細な技術を身につけたいです。たとえば、渡邉師範が行う上生のような、繊細な技法を用いたお菓子作りを学びたいですね。この会社に入社したからには、一度は挑戦してみたいという気持ちもありますが、そう言ってしまうと本当に和菓子を担当することになりそうで、仕事が増えるのは少し心配ですが(笑)。
▼渡邉師範の記事はこちら
― 仕事を終えたあと、下田さんは何をして過ごしていますか?
下田:基本的には仕事のストレスは家に持ち帰らないようにしています。その日の仕事が終わったら、それで終わりです。とくに意識しているわけではありませんが、自然とそうなっていますね。
あと、私はよく食べています(笑)。食べるのが好きで、それが私の生きがいの一つです。ハンバーグや焼肉など、ガッツリとした食事が好き!グルメやスイーツを楽しむことは私にとってストレス解消になっていますね。
会社帰りの楽しみは、近くのペットショップで動物たちを見ること。まだ飼うことはできませんが、動物を見ると癒されます。家ではTikTokでペットの動画や料理動画をよく見ています。特に料理動画は「何か自分でも作れるものはないかな…」と考えながら見続けていますね。やっぱり作ること自体が好きなんですね(笑)。
|編集後記|
下田さんは、「私たちの職場は人間関係が良く、毎日が楽しいです!」と笑顔で話してくれました。仲間たちと一緒にお菓子作りに励む姿からは元気をもらえます。作業中は若きリーダーの風格を漂わせていますが、私服姿とのギャップが魅力的です。これからも職場を明るく照らしてくださいね。新しいお菓子の開発も楽しみにしています!