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【社長つれづれ#1】想い出の一杯。RITARU COFFEEの燻製珈琲

千秋庵製菓の中西です。
ある日、担当者から「『社長つれづれ』というコーナーを作るので、noteで何か発信してください!」とお願いをされたのですが、コーナー化するなら自分の好きなことや気になっていることを書きたいと思いました。
 
個人的に珈琲が好きなので、第1回目は珈琲について書こうと思い、札幌でお気に入りの珈琲店「RITARU COFFEEさん(以下、RITARUさん)」に取材依頼したところ、オーナーの三上さんにご快諾をいただき、お話しを伺うことが出来ました。
 
「社長つれづれ」の第1回目はRITARUさんのオーナーの三上さんとの対談をお届けします。

左:RITARU COFFEEオーナー 三上悦史さん | 右:千秋庵製菓 代表取締役社長 中西克彦
【RITARU COFFEEとは】
利他の心でもてなす至福の時間をすべての人へ。お客様の日常のなかにコーヒーを通してちょっとした感動を届けたい。世界中から厳選した豆を熟練の技術で丁寧に時間を重ねて焙煎し提供する自家焙煎珈琲店です。https://ritaru.com/pc/index.html


珈琲との出会いから開業までの歩み

中西:大好きなRITARUさんの三上オーナーにお話を伺えるということで、とても嬉しいです。RITARUさんは私が以前勤めていたBAKEというお菓子のスタートアップで、札幌の珈琲店との企画を検討した際に名前を知り、担当者が「燻製珈琲が美味しい」と話していたので、帰省の際に初めて伺って、それ以来のファンです。本日はよろしくお願いします。
 
三上さん(以下、敬称略):よろしくお願いします。

中西:それでは先ず、三上オーナーと珈琲の出会いについて伺えますか?

三上:私はずっと札幌市に住んでいまして、昔はかならず駅の構内に○○珈琲という個人でされているコーヒー店があったんですね。そういうお店を巡るのが好きで、高校生くらいから喫茶店によく行くようになりました。

中西:最初にお気に入りになったお店はどこですか?

三上:コーヒーが美味しいとかではなくて、近くて居心地がいい喫茶店が札幌市南区の澄川にあって、名前はもう忘れてしまって…。たしかフードセンターの中に併設されているようなお店でした。コーヒーも想像ですが、一度入れて溜め置きして、沸かし直して提供していて、苦くて熱い…ようするに煮詰まっているコーヒーでしたね。当時300円くらいの安い価格で、長く居られるところが魅力的なお店でした。そこで友だちと話したり、本を読んだりしていました。ファーストフードがまだ今のように多くない時代でしたので、そういう喫茶店をよく利用していましたね。

そういった経緯で学生時代から喫茶店でアルバイトを始めて、ますます「コーヒー店って、いいなぁ」と思うようになりました。

中西:その後、本格的に札幌市内の珈琲店に勤められたんですよね?

三上:はい。札幌では名の知れた老舗の珈琲店です。ここであればコーヒーのことが専門的に学べると考えました。最初から「将来、自営をする」のが目的で、ノウハウが学べると思い入社しました。今では10店舗ほど展開するお店ですが、当時は2店舗だけで、これから拡大する時期の手前でした。そこで独学で写真を撮ったり、簡単なホームページを作成したり、焙煎をしたり、営業や配達をする、なんでも屋のようなことを10年間やらせいただきました。

33~34歳くらいの時、この円山エリアの物件が見つかり、独立を決めました。30代は気力、体力、馬力があって、何か新ことをしたいと思った時に飛び込める時期だと思うんですね。中西さんは今そういう時期ですよね。うらやましいです(笑)。

中西:そうですね。30代はいろいろと経験を積んで、自分でも少しずつできることが増えて自信もついてくるし、意欲もある時期ですね。

三上:自分にとってもまさに30代が転機で、りたる珈琲を開業しました。

 

「燻製珈琲」の誕生の経緯

中西:私はRITARUさんの「燻製珈琲」が大好きなのですが、「燻製珈琲」はどのようにして作られたのでしょうか?

三上:創業当初から「コーヒー」を通して北海道の魅力づくりに貢献したいという想いがあり、「赤道直下の国が原産のコーヒーを、どのように北海道と結びつけるのか」を考えていたんです。

そんな中で、北海道の樹木を原料として用いた「燻製」をアイディアに考案したのが「燻製珈琲」です。通常通り焙煎したコーヒー豆をさらに燻製するという取り組みを岩見沢市の市川燻製屋本舗とのタッグでスタートしました。

実は、「燻製珈琲」のベースは当店一番人気の「りたるブレンド」です。このコーヒーを燻製して、何十回も試しましたが、味が決まるまで非常に難しかったです。
豆を挽いて、温燻(おんくん)という製法で香りを纏わせます。燻製を一度かけて休ませ、その後再び燻製をかけて休ませる工程をくり返しますが、何回燻製をかけるのがベストかについて市川燻製本舗さんと議論を重ねながら、珈琲専門店ならではのアプローチを追求しました。

燻製珈琲の開発は、珈琲の後味を感じられる燻製度合いを探す旅のようなものだと感じています。すでに世の中には燻製コーヒーというものが存在しており、キャンプに行って燻製して飲む方もいらっしゃいます。その場合、薫香はするものの、コーヒーそのものの味がしない印象がありました。私が作る燻製コーヒーは、後味が燻製の印象で終わるのではなく、「美味しいコーヒーを飲んだ」という印象で終ることを目標にしました。

特にコーヒーは最初に淹れた熱い状態を一口飲んで楽しみ、しばらく置いて冷めたものを飲むことが多いと思います。その時に「美味しかった」と感じていただきたいのです。そのためには、コーヒーそのものが美味しいことが重要です。そこで、りたるブレンドに燻製を施し、試飲の際には敢えて冷まして飲むことで、「冷めても美味しいコーヒー」を目指しました。

中西:確かに、冷めたものを飲んでも、すっきりして美味しいです。開発にはどのくらい時間がかかりましたか?

私のお気に入りのカップに注がれた、後味がすっきり美味しい燻製珈琲

三上:燻製珈琲は半年くらいで完成しました。そのあと、ドリップコーヒーを開発し、2015年に発売を開始しました。

パッケージは、デザイナーとアイデアを話し合いながら、細部まで北海道にこだわりたいと素材から吟味して、寒冷地である北海道でしか生育しない針葉樹エゾマツを原料に使用した「エゾマツクラフト」という紙を使用しました。この紙の濃い茶色が燻製のイメージに合うと感じたためです。

当時、エゾマツクラフトはできたばかりだったので、紙の入荷を待って印刷に入り、実際販売するまでには約1年かかりました。

中西:「燻製珈琲」の存在を知って飲んだ時の印象は、もっと燻製香がして、はっきり燻製の味がするのかな、と思っていたんですね。飲んですぐはわからなくて、徐々にわかってくるというか。私も当時はまだコーヒーを飲み慣れていなくて、「コーヒーというのは奥深い…」と感じさせてくれたのが、RITARUさんの燻製珈琲だったんです。それがコーヒーにハマる1つのきっかけとなりました。

三上:そうだったんですね。実は、コーヒーというのはどれも正解なんですよね。いく通りも味わいがあっていいと私は思います。

中西:私は北海道大学(以下、北大)のOBなんですが、北大と一緒に作られた「アノトキ」はどのように開発されたのでしょうか?

三上:私たちが営む「NOTHING」という真っ白いイベントスペースがありまして、再開発のために伐採することになった北大構内の320本の木々を記録した写真展を開催したんです。そこで知り合ったCo-STEPの講師の方から打診を受けたのがきっかけですね。

講師の方から、「実際に伐採した木々の使い道」について相談を受け、「燻製珈琲」を提案したことから商品開発がスタートしました。

伐採された木々を原材料にして燻製をおこない、再開発の影響で伐採せざるを得なかった320本の木々が、確かにそこにあったという記憶を香りとして閉じ込めるというユニークなストーリー性を持った珈琲が、2019年に誕生しました。

パッケージにもその意図を残したいと考え、講師の方が撮影した木々の写真を表紙に飾りました。

木々が伐採された「トキ」だけではなく、それぞれの学生時代の「トキ」を思い起こすことができればいいな、という願いを込めて「アノトキ」と名付けました。

おかげさまでコンスタントに販売されています。学校関係者や卒業生が懐かしく感じてギフトとして注文してくれることも多いですね。

中西:私も北大構内のショップで販売している商品を見てはじめて知りました。珈琲を味わうたびに、その記憶が香りとして蘇る…。素敵なストーリーですね。

北海道大学と開発した燻製珈琲「アノトキ」

三上:お菓子もそうですよね。千秋庵さんも100年以上の歴史があるから、ストーリーが尽きないのではないですか?

中西:確かに、歴史が長いので、ストーリーはたくさんはありますね。個人的には、「0(ゼロ)」から「1(イチ)」を生み出すというより、過去から着想を得て、それをモチーフとして新しいものに進化させる「復活型商品開発」が現在の千秋庵らしい開発方法だと考えています。

三上:お菓子を作ることも、そのイメージを作り上げることも、とてもクリエイティブな仕事ですよね。

中西:私はもともと製菓学校を出ているわけでもなく、お菓子作りのプロではないので、「こうかな?」と考えて実際にやってみて、試行錯誤しながら作っています。

三上:それが良いのかもしれませんね。製菓の知識がありすぎると型通りから脱却できないこともあります。いい意味で素人だと「とにかくこういう形にしたい」「こういうお菓子をつくりたい」という着想から入るので、そこに対して純粋に努力を重ねていけますし、その過程のワクワク感が商品からも伝わってきますよね。

中西:そう言っていただけると嬉しいですね。

毎日服を着替えるように、カップも着替えるというこだわりのアンティークカップ

「北海道」を意識した商品開発

中西:三上さんが商品開発で意識していることはどのようなことですか?

三上:「北海道」をキーワードとして意識しています。
コーヒーは他社との差別化が非常に難しい商品です。「北海道らしい商品」にこだわりたいけど、北海道らしさって何だろう…と考え抜いた末に「燻製珈琲」が生まれました。
次は、一般的にはアイスコーヒーを開発するのですが、「北海道」をキーワードに考えると「牛乳」だと。そこで、牛乳で割るだけで自宅で簡単に本格カフェオレを楽しむことができる「カフェオレベース」を作りました。

牛乳で割るだけで自宅で簡単に本格カフェオレを楽しむことができる「カフェオレベース」

三上:そして、「北海道産ミルク」と「クリームとの相性」を一番に考えて「コーヒーゼリー」を作りました。製造に羊蹄山の湧水を使用し、ミルクとクリームのマリアージュによって初めて味わいが完成することを意識して開発しました。コーヒー専門店でしか出せない爽やかな苦みが印象的だと評判をいただいています。

中西:北海道が好きで、北海道らしさにこだわりたいという想いが伝わってきますね。

三上:北海道が好きですし、北海道にいる私たちだからこそ生み出せるものを作りたいと思っています。

実は、北海道以外の人の方がその価値に気がつき、その良さを上手に活かしている事例が多いと感じています。北海道に住んでいる私たち自身が、もっと北海道の中にある良いものを発見して、うまく外に発信できたらいいなと、そういう想いが商品開発の根底にありますね。

ミルクとクリームのマリアージュ。製造に羊蹄山の湧水を使用したコーヒーゼリー

複雑で、曖昧なコーヒーの魅力

中西:コーヒーの味については、どのように決めているのでしょうか?

三上:自分の中に「こういう味にしよう」というイメージがあるので、どのように「コク」を際立たせるか、「香り」を強調していくかを考えます。

コーヒーの種類や味と香りの傾向は掴んでいるので、あとは組み合わせ方です。ブレンドの場合は、味を複雑にしすぎないことがポイントですね。
もともとコーヒーの味は複雑で、一言で表現できる言葉が見つからないくらい「曖昧」…そこが悩ましいんですね。

中西:焙煎温度や時間は決まっているのでしょうか?

三上:焙煎には最低限の基準がありますが、焙煎士の経験と感覚が重要です。生豆にはもともと水分が含まれているため、まず水分を抜く作業を行い、その後に焙煎します。豆によって湿度が違うので、焙煎時間を調整してコントロールします。焙煎後は撹拌作業を行いますが、熱々の窯の中で豆同士が混ざることでさらに煎りが進みます。その経過を見ながら微調整を加えています。

中西:焙煎途中で、豆の状態を確認することはできるのですか?

三上:焙煎中はテスターを使い、途中で豆を引き出して状態を確認できます。目視で脂が浮いているかどうかを見たり、プチプチと豆がはぜる音を聞いたりして焙煎の進み具合を判断します。「はぜてから何分経過したか」などの時間も目安になります。

冬は豆が冷めやすく煎りが進みにくい一方、夏は煎りが速く進むため、季節によって注意が必要です。また、照明の色が焙煎具合の判断に影響するため、できるだけ太陽の光で目視できるように、昼間に焙煎するよう心がけています。

三上:焙煎のバラつきを防ぐために、一定の状態を保つことが大切ですが、コーヒーの持つ「曖昧さ」に助けられる部分も多いですね。人間の味覚や気分も毎日変わるので、その時々で微妙に調整しています。
例えば、冬は少し深めに煎ってコクを出し、夏は浅煎りでスッキリさせるなど、ほんの少しの工夫を加えています。

中西:自分はその「曖昧さ」にすごく魅力を感じます。同じブレンドなのに日によって味が変わる、コーヒーの「生き物感」に惹かれますね。

三上:そうなんです。コーヒーは農産物なので、いくら一定に調整しても、仕入れる豆がロットごとに変わるので、できる限り安定した味を保つように調整していく感じですね。

中西:コーヒーもワインと同じように、収穫時期や年度によって味わいが変わるのでしょうか?

三上:「○○農園の○○年収穫のものが美味しい」となっても、商社で扱うロットが売り切れるともう手に入りません。そのため、「前のコーヒーが好き」と言われても、全く同じ味を再現するのは難しいんです。その時期のその農園で収穫された豆は世界中で限られた量しかなく、売り切れるともう市場には出回らないんですよね。ストレートな生豆は、本当にワインのようにその時期だけの特別な存在です。

中西:本当に出会いなんですね。

三上:そうなんです。特にグアテマラやエチオピアのような香りが強い豆は個体差が大きいんです。精製方法はいくつかありますが、よく知られているのが「ウォッシュドプロセス(水洗式)」と、天日干しする「ナチュラルプロセス(乾燥式)」で、私はナチュラルプロセスをよく使います。この製法は、発酵が進むことでフレーバーがさらに強まり、コーヒーの旨味が際立つんです。
人によって好みは様々ですが、催事で試飲を行うと、ほとんどの方が「酸味が少ないコーヒー」を好む傾向があると感じます。そうした意見を参考に、少し深めに焙煎して酸味を抑えた味を提案することが多いですね。

中西:自分もお菓子でそういったものを作りたいです。お菓子は比較的均一なものというイメージがあるかもしれませんが、桜餅のような季節のお菓子を、その年のその時期にしか味わえない素材で作るのも面白いかなと思っています。「今年の餅はいつもより少し固めの仕上がりです」といった具合に、その年ならではの味わいを届けられたら素敵だなと感じています。

三上:クラフトビールのように、「〇〇農家で〇年に収穫されたもので作る」というのも面白いですよね。

中西:いいですね。自分は農業にも関心があるので、ぜひやってみたいです。とくに小豆は、すでに生産契約が確定している場合が多いので、これから取り組みはじめる若い生産者と一緒にやってみたいですね。一緒にお菓子づくりに取り組みながら、お互いに成長していくようなことに挑戦してみたいですね。

 

コーヒーとは、「人に寄り添うもの」

中西:オーナーにとってコーヒーとはどのような存在ですか?

三上:「人に寄り添うもの」だと考えています。
この考えは、RITARU COFFEEの店名の由来がベースにあります。

「RITARU(りたる)」とは、「利他」と「足るを知る」を掛け合わせた造語です。自分のことだけではなく、他者の幸せをも願う”利他(りた)”。 そして、不足していることに囚われすぎず、現状に満足し心穏やかであることを意味する”足るを知る”。創業当時から変わらぬ姿勢として、スタッフにも同じように感じてもらえるように、自分への戒めの意味も込めています。
スタッフには、「悩んだら、利他的に考えましょう」と伝えていて、行動指標になっています。

私はどちらかといえば「喫茶店」をしたくて、居心地の良い空間があり、その中で美味しいーヒーを提供したいと考えています。仕事をしながら、会話を楽しみながら飲むコーヒは、熱くても冷たくても構いません。あくまでアシストするツールであってほしいと思っていて。そのような意味で「寄り添うもの」と考えていますね。

中西:私も本当にこのお店の空間が好きですね。

三上:ここは、かつて飲食店だった店舗を改装しながら使用していますが、もともとあった梁がいい効果をもたらしていて、個室感を味わえるんです。

居心地の良い喫茶店には「程よい個室感」が大事だと思っています。実は、椅子にもこだわりがあって、肘掛けを備えたアームチェア (肘掛け椅子)にしています。隣通しに座ったとしても「個」を大切にできると考えて選びました。

中西:なるほど。すべてが人に寄り添う居心地の良さにつながっているんですね。空間を大事されていることに、納得です。

三上:中西さんが燻製珈琲を気に入っていただいて、社長コーナーの1回目に選んでくださって光栄です。

中西:本当によく利用してます。実は山親爺のCMをリニューアルする際に、「山親爺のCMソングを歌って頂きたい!」とYUKIさんにオファーレターを書いたんですが、そのオファーレターの文章はRITARUさんで書いたんです。

三上:本当ですか!それは嬉しいですね。

中西:それから、昔店内に「混雑時のご利用は何時間まででお願いします」という案内カードがあったと思うんですが、確か3時間でしたよね?混雑時って、普通長くて2時間だと思うんですけど、3時間って長いなーと。

三上:ありましたね。あのときは時間制限をかけるのも苦渋の決断でしたが、なるべくゆっくりして頂きたくて3時間にしたんです。

中西:混んでいてもゆっくり過ごせる時間を大事にされているんだな、と感じたのを覚えています。(#1はここまで)

 
取材の後半ではRITARUさんのデザートメニューで私が大好きな「リタルロール」についてお話を伺いました。#2も合わせてご覧ください。

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