電車内で「鉛筆を売る男の子」に出会った話。
カナダ・モントリオールは、日本と同じくらい安全な街だと思う。東京に29年間住んでいた私の目線では「下北沢と同じ。夜歩いていても変な人もいないし、身の危険を感じることもない」という感じ。もちろん、場所によっては麻薬中毒者のいる場所やあまり通りたくない通りもあるので、気をつけるにこした事はない。
そんな安全な街モントリオールには、ホームレスがたくさんいる。ホームレスといってもさまざまで、本当に家がないホームレスから家はあるけど道で物乞いを仕事にするホームレス、麻薬中毒やアルコール依存症で働けなくなったホームレスなどなど。でも彼らは、まわりの人に危害を加えることはほとんどない。怖い目にあったことは一度もないし、歩いていると「bonne journee(いい日を!)」と声をかけてくれる優しい人が多い。
カナダ政府のサポートもあるが、基本的に彼らは、いわゆる「物乞い」をして生活をしている。物乞いの方法も場所もたくさんあって、普通は駅やお店の前といった人通りが多い場所でしているのが一般的だ。中には大きな道路の脇にテントを構え、棒と紙コップで作った手作りの回収ツールで信号待ちする運転手に物乞いをする強者までいる。
で、昨日のこと。友達と飲みに行った帰りに、久しぶりに電車に乗った。電車では携帯電話をいじっている人が多数、後はおしゃべりしたり、ぼーっとしていたりする人。私は日本からの習慣で、どんなに短い距離でも必ず本を読むことにしている。何か集中できるし、電車の中で本を読むのが好きだから。
この日も本を黙々と読んでいると、急に目の前に男の子(大学生くらい)が現れた。「Hello、English(英語)?French(フランス語) ?」と言われ、咄嗟に「English (英語)」と答える私(フランス語はまだ30%くらいしか理解できない)。よく見ると、男の子の手には、これでもかというくらい、大量のえんぴつが握られていた(笑)。そして彼は「僕は学生です。学校に行きたいのですが、お金が足りません。なので鉛筆を買っていただけますか?」と言って、ニコニコしている。
なんと、びっくりである。今まで「困っています、お金をください」のくれくれパターン物乞いしか出会ってこなかった私は、彼の「ギブアンドテイク」方法に、とても感動してしまった。そしてえんぴつという古風な感じが、私のツボに入った(笑)。
その後、話を聞きながらも乗り換えをしなくてはいけなかった私は、持っていた3ドル(300円)を渡して、「1本ください」と伝えた。すると男の子は、満面の笑みで「え?いいの?1本で???ありがとう」と嬉しそうに言った。そして私が降りようとした時、彼は大きな声で「Thank you!!!!(ありがとう)」と叫んでくれた。
無事に電車を乗り換えた私の手には、1本のえんぴつが残った。そしてなぜか、ニヤニヤが止まらなかった。ただの1本のえんぴつを3ドルで買っただけ。本当は彼は学生じゃないかもしれない。でもそんなのはどうでもよかった。何か少しだけ、いいことした後に感じる、ジワッと温かい感じ。電車でおばあちゃんに席を譲って、「ありがとう」と言われた時と同じ、あれ。
いくらあげるとか、金額は関係ない。大事なのは「その人の1日に、ちょっとだけ幸せをあげたい」と心で思うこと。私がホームレスに渡すお金は本当に少しだけど、「ああ、今日もコーヒーが買える」とか「この10円で100円になった!嬉しい」とか、私の小さな勇気で、小さな幸せが増えればいいなと思う。
1本のえんぴつを買った時の男の子の笑顔を見た時、「いいことしたなぁ・・・」と、私も心から嬉しくなった。募金だけじゃなく、これからもそうやって、「人の幸せを増やす」ことをしていきたいなぁと思う。