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29.8

雨が空から堕ちて来る
雨が、雨が、堕ちて来る
もう三日も着っぱなしの上着を濡らして
その下の薄汚れた肌を凍らせる
所詮ヒトがヒトにできることなどたかが知れていて
片手で収まる程度のもんで
下手すりゃひとつもありゃしない
それはわかっていたけれど
思い知ってはいたけれど
それでも
諦められなかった
諦めたくなんかなかった

ねぇ教えて
あなたは
飛んだ先に何を見た?
何が見えた?
何が見たかった?
いくら訊ねても
いくら声を張り上げても
あなたからは二度と
応えなど帰ってはこないけれど
ここに残ったままの私に
聴こえるわけもないけれど

でも、だから
だから

耳を澄ますよ
耳を澄まして澄まして澄まして、
そして
聴こえないと知っていてもわかっていても、いつか何処かで
もしかしたらと
待ってしまうよ

そうだね
あなたが飛んだその時にもう
あなたと私との緒は 切れたのかもしれない
今もまだ残る私の手の中の
緒の先は、もうとうの昔に切れていて
風に弄られていたのかもしれない

それでも

それでも、いいよ
この手からは離さない 話したくない
持ち続けて、手繰り続けて
私はここにいよう
いつかその緒の先が
見えるかもしれない その日まで

いつか
そう心に刻んだことも忘れ
同じ穴に堕ち込むこともあるかもしれない
それでも
私はここに在る
ここに 在る

耳をすませば夜の向こう
微かに軋む音がする
惑い揺れるシーソーの
風に軋む乾いた音が
いや

あなたの 声 が

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にのみやさをり
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