糊
今、大和糊などといったチューブに入った糊を使っている人はどのくらいいるのだろう。文房具屋に行っても、手を汚さずに使えるスティックタイプの糊に売場の殆どは占拠され、昔ながらの、チューブに入った糊の姿は隅っこに追いやられるか、さもなければ失われてしまっていたりする。そういう私が普段使っている引き出しの中に入っている糊も、スティックタイプの糊だけだったりする。
粉ミルクを子供に飲ませる都合上、粉ミルクの缶が日々増えていく。大きさも揃ったしっかりした缶である。これをこのまま捨てるのはもったいない。貧乏根性がむくむく動き出して、缶の利用法を考える。砂糖や塩、お茶っ葉を入れるのにもいいかもしれない。使おうと思えば何にでも使える。うーん、結構いいかも。でも。
いくら貧乏根性が働いたとはいえ、明治だとか雪印だとか森永だとかの何とかミルクとでかでかと書かれた缶をそのまま使うのはちょっと気乗りしない。紙か布を貼りつけたらどうだろう。今は店に行けば壁紙用のシールタイプのものも売っている。それを貼ってもいい。それが一番お手軽かも。でも、お金を出してそんなものわざわざ買ってくるのでは意味が無い。やっぱり家にあるもので何とかしよう。というわけで、パッチワーク用の端布を引っ張り出す。が。
糊がない。スティックのりでは缶に布を貼りつけられるほどの粘着力はない。やってみてもすぐはがれる。頬杖ついてしばらく考える。糊のりノリ…。そうそう、この手があった。
小さい鍋に小麦粉を入れて水で溶き、火にかける。かき混ぜながらとろ火でことこと。しばらくすると水溶きした小麦粉はねばねばしてくる。やがて透明感も出てくる。
昔、祖母がこうしてノリを作り、和紙人形を作ったり傘を作ったりしていた。おぼろげにしか覚えていないが、たしか母も。
出来あがった小麦粉のりを厚紙を切って作ったヘラで缶にぺたぺた塗り付け、そこに布を貼りつけていく。きれいに貼れる。のりを塗りすぎると布から染み出してしまうので、薄く薄く塗っては布を貼りつける。オリジナル缶のできあがり、だ。
手は多少汚れるけれど、なんだか懐かしい汚れである。忘れていた大和糊の味を思い出す。手をいっぱいに汚してもそんなことどうでもよく、拙い工作に夢中になってあっというまに時を過ごしていたあの頃を。
きれいすぎる手よりも、あちこちにシミがあろうと汚れていようと、厚みのあるあったかい手が、私は好きだ。
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