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💭どこかの街の、架空の思い出たち💭

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短編小説や詩などを載せています。
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#あの恋

そのぬくもりを

ひとりぼっちだったとき、かじかんだわたしの手を温めてくれたのは小さなマグカップだった。  わたしの手のひらより少し小さな、白いマグカップ。 心が冷え切ったときはいつも、ゆらゆらと湯気を立たせながらわたしの手のひらを温めてくれた。 その熱いくらいの温度が、“きみはひとりぼっちじゃないんだよ”と言ってくれているみたいで、無機質な冷たさになるまでずっとずっとカップを握りしめていた。 ◇ それから長い月日が経って。 いまわたしの手を温めてくれるのは、あなたの少し大きな手。 じ

空白の間

手を伸ばせば届く距離にきみはいるのに、ぼくはその手に触れることができない。 きっとぼくがそっと触れたその瞬間、きみは消えていってしまう予感がするから。 それが怖くて、苦しくて、そんな悲しい思いを味わいたくなくて、ぼくは距離を詰めることもせず、ただ少し離れた場所からきみのことを見守っている。 きみも、ぼくに目線を合わせ優しく微笑んでくれている。愛に満ちた、優しげな眼差しで。 でも、ぼくは気づいてる。 きみが二人の間にある数センチの間を埋めようとしないことに。 きみのつま