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💭どこかの街の、架空の思い出たち💭

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短編小説や詩などを載せています。
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2020年5月の記事一覧

短編小説『チョコレートと赤い家』

今日は遠回りして帰ろう。高校生のとき、そんな気分になる日がときどきあった。理由は特にないけれど、ただなんとなく、時間を無駄にしたくなることがたまにあったのだ。 だからその日も授業を終え学校を出ると、いつもは右へ曲がる道に背を向けて、ゆっくりと歩き出した。 途中足元に転がっているちいさな石を蹴りながら、「小学生のときはよく友だちとこうして遊んでたな」と思い出に浸ることも楽しみのひとつだった。一種の現実逃避なのかもしれないけれど、構わずにゆっくりと道なりを進んでいく。 それか

#文脈メシ妄想選手権

 午前ニ時。大半のひとが眠っているであろうその時間に、わたしはカバンからスマホを取り出した。街灯もない道端にぼうっと浮き上がる見慣れた光に油断して、涙が出そうになる。ぐっとこらえて、指を素早く動かし電話帳から彼の名前を探す。そのまま、受話器のボタンを押した。   「―もしもーし?」  三コール目、かすかなプツッという音のあと、いつもの声が聞こえた。  「―夜中にごめん。わたし、由紀。……ちょっといまから、そっちお邪魔してもいいかな」  雅人は最近、昼夜逆転生活をしている。きっ