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思い出レストラン

ある朝、奇妙な光で目が覚めた
柔らかく薄ぼんやりと光る黄色い光

朝なのに、月明かりのような不思議な情景につられた僕は
パジャマに上着だけ羽織って玄関を出た


朝霧が広がり視界が悪い中、光に導かれる様に
アパートの前の路地を右に二回、左に一回曲がった
すると、そこには小さなレストランがあった

レストランの古びた扉を光がすぅっと通り抜ける
ガチャリとドアノブをひねると、レストランの真ん中には
一席だけテーブルがあった
その上には大きな白い器がセットしてある

恐る恐る腰掛けると、光が皿の上にちょこんと乗り
何処からともなく声がした

「思い出一つ、お待たせ致しました」

甘い卵の匂いがして視線を落とすと
光は、見覚えのある卵焼きに変わっていた
思わず一つつまんで、パクリと口に含む


「もう!つまみ食いやめなさいって言ってるでしょう」
「出来立てが美味いんだから、しょうがないじゃん」
慌ただしく僕と父の弁当を作る母は、数十年前の姿のままだった
「卵焼きはね、冷めたころに甘味が増すのよ」


プァァーーーーーーー

電車がホームにやってくる音で、はたと我に返る
気づくと僕は最寄り駅のホームに立っていた
もう何年も食べていなかった甘い卵焼きの味が
まだ口の中にほのかに残っている
ああ、そうか 今日はあの人の命日か


「ほら、今日も頑張ってらっしゃい」
遠くでニッコリ笑う母の声が聞こえた


あの街までは電車で何時間だったかな
僕は母への手土産を考えながら、一歩を踏み出した


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こやまさおり

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