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突風吹いて、善と成す

「もうダメだ」と思った
走り抜けなければいけない時
僕は毎回心が折れそうになる

「こけそうになりながら、足を前に出して進め
 そうすれば気付くとゴール地点にいるもんだ」

誰の言葉だったか
そうは言うけれど、鉛のように重くなった足はどう出せと言うのか
後ろからどんどんと追い抜かれて、ますます気持ちが負けていく

頭の良さなら隣の席のあの子
絵の上手さなら後ろの席のあいつ

では、僕には何があるのか
僕にはこの足の速さしかないのに

沢山の期待の視線と裏腹に鼓動と息が上がっていく
ああ、また…
そう思った時、突風が勢いよく吹き、背中を押した
ハチマキが吹き飛ぶ
皆の視線が一瞬外れる

風の道がシュルルと僕の前に現れた
ここだ、と思った
と同時にグイッと足を前に振り上げて、踏み込む

その後のことはよく覚えていない
気付くと僕はゴール地点に倒れ込んでいた

「勝ったって思ったんだけどなぁ」
同じ陸上部の友人がすっと手を伸ばして、立ち上がらせてくれた
泥だらけの膝を払いながら、額の汗を拭った
秋の風が心地よく、僕は何かが変わるのを感じていた


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こやまさおり

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