月夜に
定年を迎えてから
1人でじっくり月を見る日が増えた
古びた縁側は歩くたびにギシリと音がして
この家を買ってからどれほど長い年月が経ったかを感じさせた
冬になると痛む膝をさすりながら、座布団を敷いて座る
暖かいお茶を一口飲むと、湯冷めした身体が温まった
「お酒は体に響きますから、お茶にしときましょう」
ぼんやり月を見上げていると、君の声を思い出す
毎朝きちんと出てくる朝食
シワひとつ無くピシリと整えられたスーツ
庭の花壇には、きまってパンジーが植えられていた
家のそこら中に君の愛情があったんだなぁと、仕事を退職してから気付いた僕は本当に大馬鹿ものかもしれない
「冬は空気が澄んでますから、よく月光が見えるんですよ
それを見ながらね、左隣のお団子やのみたらしを頂くの
最高の贅沢ねぇ」
仏壇に供えたみたらし団子は、夜風で硬くなってしまっただろうか
一度くらい、夜の贅沢に付き合ってやればよかったな
「月が綺麗ですね」
君の言葉がじんわり心に響く
「月が綺麗だね」
応えるようにポツリと夜空に呟くと
ふんわりと夜風が吹いて頬を撫でた
隣に置いた君のお茶に映る月が、ぽちゃんと小さく揺れて
まんまるい君の笑顔を思い出す
今宵は不思議な月の夜
懐かしい月の夜
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