フランス留学3年目とその先
「学業を終えたら日本に帰ることにした」と知人や友達に言うと「なぜ?」と聞かれる。中には全力で止めてくれる人もいる。「博士課程までやればいいよ!CNRS(国立科学研究センター)には外国人がたくさんいるはずだよ」という友人の提案は、私がフランスで生まれ育っていたらやってみたかったかも。
長期留学のおかげで、非ネイティブとして自分の場所を築く、彼らと対等に接するのは簡単ではないことに気づけた。1年だけの滞在だったら私はこの文章を書くには至らなかったはずだ。フランスの社会保障も教育制度もとりわけ費用の心配をしなくていいという点で素晴らしいと思うし、どこでも気持ち良い挨拶が交わされる文化も好きだ。ドアがバタンと目の前で閉まることもない。大学は遊ぶ場所じゃなく真剣に課題に取り組む場所として機能しているところも。挙げるとキリがない。
そんな場所で3年目を頑張っている中で分かったことは、移民として生きても十分な力が出せなくて「どうしようもないな」という感情がいつの間にか優勢になってしまうことだ。事前準備はスケジュール通りに完璧にこなせるようにはなった。でも、ディスカッションでは日本語のようには本領を発揮できないし、プレゼンの質疑応答をうまい具合にかわすこともままならなかったりする。私ができなくてもみんなが助けてくれる。誰も私の発音や文法の間違いを笑ったりなんてしない。でも、ディスカッションやプレゼンを重ねる度に経験値が積み上がる一方で、「小さい頃からここにいなかった人」という側面が可視化されていく。どんなに頑張っても埋まらない差を毎回毎回突きつけられると、私を成長させてくれる場所として輝いていたフランスが、どうしようもできない現実を突きつける場所に変わっていく。
だから私は、大学生活が終わったらフランスからは去る。それに対して未練はないし、フランスはずっと大好きな場所で今後も何度も訪れると思う。留学によって得た知識やスキルは今後の人生を彩ってくれるはず。
「フランスで日本語の母語話者としてのアドバンテージを活かすより、日本でフランスの大学で培った経験を活かす方が私には適切な選択(choix pertinent)だと思ったの。大学での学びは本当に全てが素晴らしかったから」とあるフランス人の友人に返したら「Je comprends bien」と返ってきた。大抵の人は、ここで仕事を見つけるのは大変そうだからと言う私を引き止めない。「そうだよね、君にとっては困難な道だろうから…」と思っているはず。
これはあくまで一人の、30代で留学した人のケースだ。私は留学中に少なくない数のフランスで生きる日本人に会ったし、人伝いにフランスで生きる日本の方々の逞しい生活を耳にしてきた。自営業ゆえにもう10年以上日本に帰っていない人もいたし、もうすぐフランスで結婚式を挙げるという人もいた。留学前は本でしか知り得なかった「フランスに移住した人たち」の話を実際に聞けて良かったし、それを少しだけ体験できたことも留学して良かったことのひとつ。
さて、帰国組の私は最終学年の課題に追われながら、日本の求人情報にも目を通し始めている。留学は1年前から準備をする。それと同じことで、今度はその逆を1年前から準備する。同じような状況の人がいたら、大変だけど頑張りましょう( *ˊᵕˋ ) ⁾⁾
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