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禅の道(107)今日に架ける橋
サイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」という曲は、若いころの私にとって、その響きだけで心躍るものでした。明日や未来にどんな橋を架けようか――そんな思いをずっと胸に抱いてきたのです。しかし、虹のようにすぐ消えてしまうはかない橋では何となく心もとない。かといって、平凡な人生を歩むだけでは物足りない。どうせ一度きりの人生ならば、自分らしく生きていきたいものだと。
昨日、京都からマキノへ越してきました。第一陣です。友人と大型の荷物を運び込み、まずは寝床の支度をするために、ボックスケースを並べた上にコンパネを一枚乗せて即席のベッドをつくりました。夜になると強い北西の季節風が吹き荒れていましたが、引っ越し作業で身体が心地よく疲れていたのでしょう。掛け布団と敷蒲団代わりの毛布を三枚重ねて、そのまま深い眠りに落ちました。午前三時、まだ暗いうちに目が覚めると、きょうもまっさらな一日が始まるのだと改めて感じます。
毎日はまだ足を踏み入れていない新雪のようなものです。そこにどんな足跡を残していくのか――私に与えられた使命は、自分のできることを一つひとつ積み重ねていくことに尽きます。土木家として、そして一介の僧侶として、小さくても私なりの橋を架けていきたい。それは他の誰かのまねではなく、私の心の中にある橋を形にしていくということです。
橋とは、渡りたい場所をつなぐためにつくられます。橋台を据え、橋桁をかけて、やがて人や車が行き来する道が開かれる――。私たちの日常の中にも、そんな橋がたくさんあるのかもしれません。寝床をつくることも、明日の準備をすることも、誰かに優しい言葉をかけることも、すべては「今日に架ける橋」の一部と言えるでしょう。
二度と戻らない今日というかけがえのない日に、ほんの少しでも自分らしい足跡を残していく。そんな思いを胸に、私はこれからも一日一日、橋を架け続けてまいります。心の中に息づく私だけの橋を、皆さまもそれぞれのかたちで架けられますように――。合掌。
Bridge over troubled Water.
ご覧いただき有難うございます。
念水庵 正道