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EP1.来訪者①

静まり返った暗闇に、赤いランプが回っていた。警官のようないでたちの男達が、ひとつの廃屋を見つめている。

下位層から近づく足音に怯えながら、俺は廃屋の非常階段をなぜか必死に駆け上がっていた。状況は掴めないが、禍々しさと緊張感で呼吸が浅くなっていることだけはわかった。

階段を登りきり、目の前の扉を開けると、大きな音と共に強い光が差し込んで視界を染めた。

数秒後、萎んだ目を開くと、上空にばかデカい音をさせながら留まっているヘリコプターと、倉庫が立ち並ぶ港の一角を、無数のパトカーが埋め尽くす真っ赤な光景が飛び込んできた。

その景色に呆気に取られていると、廃屋を鳴らす鈍い足音が一瞬ピタッと止まった。気配を感じて振り返ると、そこにあったの父親の姿だった。

再び鳴り出した足音は、狼狽える俺に詰め寄りながら胸元に手をかけ、拳銃を取り出して俺の眉間へと構えた。

自分がなぜ追われていて、なぜ逃げているのか、全く理解は追いつかないが、それでもそのときはただ自分の命を守ることだけに頭を使うしかできなかった。

父親との距離は15mほど、パラペットまでは5m程度。

撃たれるか、飛び降りるか、数秒思考した後に、生き延びられる可能性があるとしたら飛び降りるしかないと判断し、父親に背を向けて走り出した。

その瞬間、銃声が鳴り響く、、

それが保育園の頃、生まれて初めて見た夢だ。

あれ以来、いつも誰かに追われたり、殺される夢ばかり見るようになった。

同時に、自分だけが周りの人達とは違う空間にいるような、違う空気を吸ってるような、不思議な感覚に堕ちることがしばしば起こりだした。

周りの大人達や、テレビの向こうの人の言葉、行動、表情が、どうも一致していないように見えて気味が悪かったり、おしゃべりしている自分を俯瞰して気持ち悪くなったりするような類のセンサーを、更に敏感にしたようなイメージだ。

自分が自分なのかも危うい状態で、自分事としての危機感は多少あるものの、全て他人事として、ただ事象を映しているだけの不気味な存在になっている気がしていた。

そうして生の実感が日に日に失われていく中で、非行や自傷行為に走ることはなく、ただ鈍い痛みが蓄積し続けるだけで年月が過ぎた。

夢占いなんて今時流行らないかもしれないけど、味方だと思っていた人が急に刃物を向けてきたり、見知った顔が殺意を持って追いかけて来ることが、僕の潜在意識だと言われても不思議はないと思った。

数年前、小学校入学前に両親の離婚が成立し、母親に引き取られた僕は今、ほぼ軟禁状態で生活している。


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