勇者の火葬

プロローグ 勇者の火葬〜朝〜

細く長く昇っていく煙が映えそうな、雲ひとつない青い空の日だった。  

勇者となった男は、鍛冶屋をやっている友人の息子で、小さい頃からよく知っていた。墓守の子とも遊ぶような少し変わった子供だった。けれども、いじめられている友達を見捨てて置けないような、正義感の強い子供だった。勇者の候補として王都へ旅立ったのは流石に驚いた。  

友人が誇らしげだったのは最初ばかりで、風の噂で勇者の話が流れるたびに心配そうに顔を歪めた。友人の息子がこの町を旅立って10年。勇者は魔王と相討ちとなり、生き残った仲間が、生まれ故郷へと連れ戻してくれた。  

防腐処理の魔法は施されていたが、それでも限界はある。友人の息子に対面したときに、その臭いに思わず顔をしかめてしまった。しかし、友人とその妻は息子の亡骸を抱き締めて、泣き止むことはなかった。  

勇者の訃報を聞いて、悲しかった、と思う。町にいたときは、店のパンをつまみ食いさせるほどには親しかった。けれども、勇者に選ばれたときに、どこか遠い存在になったように感じてしまった。だから、訃報を聞いたとき、友人の息子が亡くなった悲しさというより、勇者が、英雄が亡くなったという寂しさだったのかもしれない。  

友人とその妻が泣きじゃくる姿を見て、やっと実感を得た。店のパンを盗み食いするあの子はいない。鉄を打つ父の姿を好きだと言ったあの子はいない。子供の出来なかった私ら夫婦に甘えてきたあの子は、もういない。  

火葬場の煙突から、細く長い煙が出てきた。国からの使者が、とても高い香木を一緒に焼べたという。じきに町中が、良い香りに包まれるだろう。  

今日、勇者は火葬される。

#小説 #ファンタジー
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