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責任転嫁システムとしてのAIマッチングアプリ

先日、人は自分でつくる物に愛着を感じるため、人生は自分で切り拓いていこうといった文章を書いたのですが、どうやら実際には当てはまらないことも多いようで、世の中および人生はやはり深いものだとしみじみ感じているところです。

その当てはまらないことというのが結婚です。もちろん、基本的には自分で選んだ配偶者と結婚することが良いのは当たり前のことだと思います。

しかし、今からほんの数十年前、一世代から二世代くらい前の時代では、結婚と言えばお見合いによって決められるものでした。

そして、奇しくもその時代の方が日本人の婚姻率は高く、離婚率も時代が経るにつれて増加の一途を辿っています。

婚姻件数・婚姻率(人口千対)の年次推移(減少傾向)

出典:厚生労働省 婚姻の推移

離婚率の年次推移(増加傾向)

出典:厚生労働省 離婚の年次推移

この情報だけを見ると、個人の自由を尊重するようになった現代の方が結婚相手を見つけることに苦戦をし、見つかったとしても離婚してしまっているという現状が見えてきます。

もちろん、経済的な事情など他にも様々な原因を考慮するべきですが、お見合い結婚の時代の方が婚姻率は高く離婚率が低いという、ひとつの事実としては成り立ちます。

内田樹のエッセイ『ひとりでは生きられないのも芸のうち』のなかに、特別座談会「お見合いは地球を救う」という章が巻末にあります。参加者は内田樹×三砂ちづる×鹿島茂のお三方です。

ここで、お見合いが果たした意外な役割が三砂さんから語られます。

三砂 他人に決めてもらえるって、実はすごい工夫なんですよ。自分だけの気持ちで「結婚したい」と口にするのは、今も昔も、多くの女性にとっては勇気のいることだと思うんです。あのおばさんに言われちゃったから、親が決めたことだから、しかたなく結婚したのよ、というスタンスがとれるのがよかった。
内田 口実ですね。
三砂 だから、これからのお見合いを考えるなら、自分の意思じゃなくて、誰かの力によって結婚しちゃったんだと思えるような仕組みにしなければ。
鹿島 責任転嫁システムだ。

出典:『ひとりでは生きられないのも芸のうち』内田樹(文春文庫)

自分で選んでいないということが責任転嫁となり、(仕方なく)相手を受け容れることに繋がるという非常に現実的な分析です。

確かに、自分で作る物などは、完成されてそこにあるだけなので、愛着が湧いてから変化することはありません。

一方で、結婚相手は人間なので、時間が経過するとともに相手の嫌なところも見えるようになり、価値観も変わっていくものです。長年を過ごしていくには、自分で責任を持つだけでは忍耐が持たず、誰かに決めてもらったという精神的な責任転嫁システムが必要なのも、無理はないのかもしれません。

そして、時代は更に進み、お見合い相手を紹介してくれるおばさんの役割は、AIを搭載したマッチングアプリが取って代わるようになりました。民間の企業だけではなく、東京都が提供するということで話題となっています。

多くの若者が「東京都のAIが決めた相手と仕方なく結婚した」というスタンスを取れるようになれば、結婚した決断の責任転嫁システムとして、東京都の取り組みが大成功だったと評価される日が来るかもしれません。

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