経済学が何でも説明してくれる|良質な経済の本を読もう
BS NHKの『欲望の資本主義』を毎年楽しみに観ており、その影響もあって「久しぶりに経済の本を読みたい」と思ってしまった。
20代の頃は、やたらと経済の本ばかり読んでいたことを思い出したのである。最近は「THE経済」といった本は読んでおらず、もう少しミクロな単位で「ビジネス書」とか「投資」とか、そういった視座でしか経済のことを考えていない。
だから久しぶりに経済学の本を読もうと考え、まずはネット上を調べまわしてみたら、気になる一冊が見つかった。池上彰の『経済のことよくわからないまま社会人になった人へ』だ。
とても良いタイトルだと思う。かく言う僕も「経済のことをよくわからないまま社会人になった人」だったから尚更そのように思ってしまう。
経済のことをよくわからないまま社会人になった僕は、社会人になってわずか3カ月で胃がんに罹ってしまい仕事を退職してしまった。労働者として日本経済に参加できたのは、わずか3カ月だったのである。
そして闘病をしながら痩せ細った自分の身体を見て、こう思ったことをよく覚えている。
「この身体では肉体労働は無理だ。知識労働で社会復帰しないと」
こうして僕は勉強することを決意したのである。まずは世の中のことを知ろうとして経済学の入門書からコツコツと読み始めた。
その過程でもっともわかりやすかったのは、上記とは別の池上彰の文庫本だった。これは本当にわかりやすく経済を基礎から説明していて、入門に最適だと思う。
こうして入門からコツコツと経済の本を読み進めていくと、どんどん世の中の成り立ちが理解できるようになり、あらゆることの説明を経済学に求めるようになっていった。もちろん、経済学で世界を理解できるかというと、そんなに単純なものではないけれど。
当時はあれだけやさしい入門書を読んでいたのだが、数年後にはマルクスの資本論の様な岩波文庫系の難解な本を睨むように読むまでになった。未だに理解ができたとは言い難いが、とにかく経済を理解したくてたまらない状態だったのだ。
需要と供給とは何か、比較優位とは何か、金利とは何か、そういった基本的な言葉の意味を知るだけでなく、資本主義の本質は何か、資本家と労働者の関係性と役割とは何か、商品とは何か、自国通貨の役割とは何か、この様なことをある程度理解したうえで自分自身が経済に参加すると、会社および社会での身の振り方がだいぶ違ってくる実感があった。
病気によって「肉体労働はできない」と思うほどの弱った状態で挑んだ現代日本の資本主義社会は、やはり厳しい現実がたくさん立ちはだかっていたけれど、経済学をある程度理解していたこともあって、あらゆるシーンで適切な判断と行動ができたことは自負している。そして色々と起こる理不尽なことを「経済学的にしょうがない」と思って納得できたのは非常に良かったと思う。
だから今年もまた経済学の勉強がしたいと思う様になってきた。これからも経済はどんどん成長(鈍化するかもしれないけど)していき、目を離すことができないほど楽しみに思っている。同時に経済的な課題にも目を向けたい。
世間では、仕事のノウハウを教える本屋投資の指南本が話題を集めていると思うが、金を稼ぐ方法を覚えるよりも、まずは基本的な理解として経済学をしっかりと学んだ方が良い。
仕事で失敗すれば打ちひしがれるし、投資で大損したら涙が止まらないだろう。そんな時に経済を知っていれば、せめて納得することができるはずだ(そもそも失敗もしなくなるはず)
おまけ|思いつく限りのおすすめ書
日本で最もノーベル経済学賞に近づいた男である宇沢弘文の『社会的共通資本』。社会的共通資本とは、農業、医療、道路交通、教育の様な、市場を介入させずに社会全体で共有すべき財産のことを指し、最近では『人新世の資本論』の斎藤幸平が「コモン」という言葉でこれに似た概念を提唱している。
MMT(ModernMoneyTheory)の入門に最適な1冊。自国通貨を持つ日本は財政破綻などすることは絶対になく、通貨を発行することで経済を無限に活発化できるとする理論。読みやすくてわかりやすかった。しかし、MMTは異端派に分類されるので、読んで理解できても周りから共感を得られないことが多い。
マルクスの『資本論』を読むのは無理、という人はこちらがおすすめ。佐藤優が講義形式で資本論の理論を基礎からマニアックなエピソードまで交えてわかりやすく解説してくれる。
2019年にノーベル経済学賞を受賞したエステル・デュフロの『貧乏人の経済学』。途上国の支援に本当に必要なことは何かを、現場の視点を通して本質的に考えることができる良書。分厚くて骨太だけど、その価値あり。