てこの原理
由緒正しきブリキ缶に納まった飴玉を取り出すには、硬く閉ざされた金属の蓋を開ける必要がある。
前回、この飴玉を食した際に、湿気を許さない為、力任せにきつく押し込んだ事が仇になり、相当な物理的な力を加えてもびくともしない。
この飴は大変美味で、懐かしい風味は洋三を裏切らないのだが、毎回、蓋を開ける際に、文字通り閉口するのだった。
これが家中で開けるのであればドライバー等を用い、いとも容易に蓋を飛ばす程に開ける事が出来るのであるが……屋外で、しかもタイミング悪くコインも無い状況であれば、圧倒的に不利な立場に追い込まれてしまう。
それ程に「てこの原理」は有効である。
洋三は意を決して禁じ手を使う事にした。全ては傍らで純粋な眼をして親の雄姿を見守る、愛する息子、世界の為である。
行楽に丁度良い気候になったこの広めの公園は、家族連れがかしましくも多数存在する。勿論、包家もその家族連れの一つに過ぎないのだが、この時は妙にシンとして静まりかえり、これから起こる勇気ある挑戦を皆が見守ってくれている、そんな錯覚に陥った。
左手でしっかりとブリキ缶をつかみ、右手の親指の無様に伸びかけた爪を、缶と蓋の間に差し込む。すると、爪と蓋があたる部分が作用点、缶の縁と指の関節辺りが支点、そして指の付け根と手の境目辺りが力点になり、我が肉体を持ってして、てこの原理を使った道具が出来上がる。
後は爪と指の接着力が蓋と缶の密着度に勝るのかどうかの勝負である。
カポッと間の抜けた音がして、無事、ブリキ缶は開いた。待ち受ける世界の口内に飴を与えたのは、無論、無事な方の左手である。
帰りの電車の中で、ゆるめに閉められた蓋が開き、鞄の中が砂糖の粉だらけになる事を、この時の洋三はまだ知らない。
〈掲載…2012年 掲載物確認中…!〉
↓製品「てこ」にちなんで作られたお話です!
「てこ」製品ページ