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変わりゆくパリと想い・願い

薄暗いサン・ジェルマン・デ・プレ教会の椅子に座りながら、「いつかここでコンサートしたいなあ。」と願った。2005年6月パリでのコンサート(パリの前はアイスランド)の制作雑用に追われながら、有名だし大きいが地味で静かな教会のこの空間に、短い時間ながら身を置けることを感謝した。パリではシャトレ劇場でコンサートを行ったのだが、古く(オペラ座より古い)豪華で妖艶な空間に、私が作る地味なサヌカイト楽器達は少し恥ずかしそうでもあった。

この教会は543年に作られ、修復を受けながら現在パリで最も古い教会で、哲学者のルネ・デカルトも埋葬されている。コンサートの出演者5名は大きく有名なホテルに、音響・照明・舞台・通訳の4人は安めのホテルに泊まってもらっていて、私は独り離れてサン・ジェルマン・デ・プレの居心地の良い小さなホテル(ドラマの撮影にも使われたそうだ)に5日間滞在。この時パリは2度目で10年に1度くらい訪れる機会がある。

私はパリでサン・ジェルマン・デ・プレという地区が一番好きだ。朝はカフェ・ドゥ・フロール等有名なカフェでクロワッサンを食べられる。画廊や骨とう品の店もたくさんあり、かつては文化人が集まる街だったという雰囲気は残っている。ホテルから歩いて1分のLE BILBOQUET というジャズクラブに毎晩通った。行けるのはだいたい夜11時過ぎくらいになったが、最初は外のテーブルで、3日目からはスタッフに声をかけられてステージ脇に通された。朝10時から夜10時まで気が休まらないバタバタなので、ワインにステーキにヨーロッパのジャズが癒しを与えてくれた。スタッフはニコニコ話しかけてくれるがフランス語は全く分からない。「5日も続けてくるやつはいないよ。」ほんとは店内より歩道に置かれた小さなテーブルと椅子に座って涼しく少し湿った風を感じなからがパリの夜。

そんなサン・ジェルマン・デ・プレ教会も、次に訪れた時は少し様子が変わっていた。ちょっと商業的な張り紙や看板が外にあったり、内部も雑然としたざわざわ感が生まれていた。パリという街も歩く人の雰囲気も変わり、私の好きな部分は薄れてきていると感じた。仕方がないことなのだろう。それでも、禅の心を好むパリの人たちは聴く機会さえあれば、サヌカイトの音の最高の理解者だろうし、喜んでもらえるだろう。実現したイメージを描きながらチャンスをうかがうことにしよう。海外公演の制作はあまりしたくありませんが。

À Saint-Germain-des-Prés サン=ジェルマン=デ=プレで
Léo Ferré レオ・フェレ

私はサン=ジェルマン=デ=プレに住んでいる
そして毎夜私はランデヴーする
ヴェルレーヌと
この年老いたピエロは変わっていない
そして女をあさるために
セーヌ河のほとりで
僕たちはしばしばアポリネールを同伴する
彼はぶらっと訪ねて来たんだ
僕たちの侘住居に
ちくしょう、僕たちは楽しくやりたかった
だがしくじったんだ
僕たちはあまりにも文無しだった
もしもあなたがたがアベイユ通りを
サン=ブノワ通りを、ヴィスコンティ通りを
セーヌ河の近くのこれらの通りを通りかかったら
微笑んでいる男性をご覧なさい
それはジャン・ラシーヌあるいはヴァレリー
たぶんヴェルレーヌだ

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