桜とかいう、卑怯すぎるヤツ
11時半に美容院を予約していたので、朝までゲームをしていたわたしは、4時間睡眠の後あわてて飛び起き準備をすることになる。
自転車をかっ飛ばす道中、パリッとしたシャツの制服の子たちが見えた。わたしの腰まで届かない身長を見るに、たぶん小学生だろうと思う。グレージュとか薄紫とか、いまっぽい色のランドセルを楽しそうに揺らして、その手を引く隣のお父さんもお母さんも、今日のために選んだであろうきれいなスーツを着て歩いていた。
しばらくすると、少し背の高い桜の木がある。そこを通りがかったときにも、やっぱり新1年生たちが3人くらい居た。小規模な桜吹雪の中、吹き付ける桜の花びらをを掴もうといっしょうけんめい背伸びしている。お母さんらしき人もひとり参加していて、周りで見守っている大人たちも、心なしか晴れやかな表情に見えた。
それがすごく素敵な光景だったんですよ、と熱弁するわたしを、美容師さんはニコニコと受け止めてくれた。髪を切った帰り道も、浮かれたような気持ちは消えなくて、その桜の前を通りがかったときもつい自転車を降りて立ち止まってしまった。
岡野大嗣さんの、「散髪の帰りの道で会う風が風のなかではいちばん好きだ」という短歌を思い出す。風界の中でも、個人的に今日はピカイチだった。散髪の帰りに桜なんて、卑怯なくらい揃いすぎている。後回しにしていた引っ越しの準備をさっさと片付けてしまおう、なんて、面倒くさがりなわたしらしくないことを思うくらいには。