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刑法各論のわかりやすい答案の書き方【法律ステップアップ講座】

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2021.9.26更新
2024.8.26更新

本稿では刑法各論の答案の書き方を説明したいと思います。
想定している読者は、「刑法総論の答案はある程度書いたことがあるけど、刑法各論の答案はどう書けばいいかよくわからない」という学部生や、学習を始めて日の浅い人などです。


■刑法総論の答案の書き方

刑法総論の答案の書き方は知っている読者もいると思いますが、ここで一度確認しておきましょう。
ちなみに、刑法総論の問題はほとんどが殺人罪傷害(致死)罪です。逆に、殺人罪や傷害致死罪が問題となる事例は、刑法総論の問題と言えるでしょう。

殺人罪や傷害致死罪の場合、つまり刑法総論の問題は、

1 構成要件該当性
(1)実行行為
(2)結果 → 因果関係(順番に決まりはない。どちらから書いてもよい)
(3)故意
2 違法性阻却事由
3 責任阻却事由


という風に書くことになるでしょう。
なお、ナンバリングは以上のものに限られません。(4)違法性阻却事由 (5)責任阻却事由 という風に書いても何の問題もありません。よく誤解されていますが、答案の書き方やナンバリングに決まりはありません。分かりやすく突飛なものでなければなんでもよいです。

■刑法各論の答案の書き方

さて、本題に入りましょう

刑法各論の問題は
1 各構成要件を解釈し
2 解釈した各構成要件に事実を当てはめる

これだけです。

注意しておきますが、刑法各論の答案の書き方は、刑法総論の答案の書き方とは、別物だと思ってください。

かつての私もそうだったのですが、刑法総論の、「実行行為→結果・因果関係→故意」というパターンから離れられない人がいます。しかし、刑法各論では、この思考パターンは捨てて下さい。これは理屈ではなくそういう物だと思って下さい書いてみれば分かります

では、刑法各論の問題について、簡単な具体例を用いて実際に答案を書いてみましょう。

問題文
「コンビニで買い物をしていた甲は、ガムを買おうとしたが、お金をもっていないことに気づいた。甲は、店員の隙を見計らい、出入り口近くの売り物棚に陳列してあるガム1つをポケットに入れて、店を出た。甲の罪責を論じよ。」

■答案


甲に窃盗罪(刑法235条)が成立するか。
[甲がガムの占有を取得した行為に窃盗罪が成立するか、としてもよい。問題提起も分かりやすければなんでもよい。]
(1) 他人の財物
「他人の財物」とは、他人の占有する他人所有の財物をいう。
 財物とは、財産的価値を有する有体物である。ガムは、価格分の財産的価値があり、有体物である。よって財物である。
 ガムは、コンビニの店長が占有し、コンビニが所有する財物であるから、他人が占有する他人所有の財物である。
 よって、ガムは、「他人の財物である」
(2) 窃取した
 「窃取」とは、他人が占有する財物を、占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転させる行為をいう。
 甲は、コンビニの売り物棚に陳列してあるガムを手に取り、代金を払わずに店を出ており、占有者であるコンビニ店長の意思に反してガムを自己の占有に移転させている。
よって、甲はガムを窃取したといえる。
(3) 不法領得の意思
 不法領得の意思とは、権利者排除意思と利用処分意思で構成される。
 権利者排除意思とは、権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として扱う意思である。甲は、権利者であるコンビニからガムを排除して、これを自己の所有物として扱う意思を持って、ガムを窃取したといえる。よって、権利者排除意思が認められる。
 利用処分意思とは、財物から生ずる何らかの効用を享受する意思をいう。甲は、毀棄隠匿目的ではなく、ガムから生ずる何らかの効用を享受する意思を持ってガムを窃取したといえる。よって、利用処分意思が認められる。 
(4) よって、甲に窃盗罪が成立する。

〜答案以上〜

こんな感じです。分かっていただけたでしょうか。
これは、ずいぶん丁寧に書いたものです。実際の答案はここまで丁寧に構成要件の定義を書く必要まではありません。
例えば、
(1) ガムは、コンビニの商品であり、コンビニ側が所有し占有しているから、他人の財物である。
(2)甲は、そのガムの占有をコンビニ側の意に反して不法に取得しているから、ガムを窃取したといえる
(3) 甲は、一時使用ではなく、終局的に自己にガムの占有を移転する意思を持って窃取しているから権利者排除意思が認められる。また、甲は、ガムを毀棄隠匿目的ではなく、ガムの効用を享受する意思を以て占有を取得しているから利用処分意思が認められる。よって、甲に不法領得の意思が認められます。
(3)よって、甲に窃盗罪が成立する。

という風に、この事例のような単純な事例では、このように構成要件の解釈を丁寧に論ぜずに、いきなり当てはめを書いても何ら問題ないでしょう。

重要な判例があるなど、丁寧に論ずる必要のある構成要件については、構成要件の解釈及び当てはめを丁寧にする必要があります。それは、判例学習が進んでいくうちに見極められるようになります。判例学習を頑張るしかありません。

(不法領得の意思は、専用の記事を書いています。そちらをご覧頂ければ幸いです。)

以上です。少しでも参考になれば幸いに思います。

■刑法のオススメ書籍

以下、刑法各論の基本書を軽く紹介しておきます。

ちなみに私は刑法各論の教科書中では、山口厚『刑法各論』が論旨明快で切れ味がよく一番好きです。10年ぐらい前から補訂以外の改訂はされていませんが、基本的な刑法各論の考え方はこれで十分身に付きますし、新しい判例は判例百選でカバーできます。

ちなみに圧倒的に一番人気の基本書は基本刑法各論です。これがなぜ人気かというと何より文章が非常にわかりやすいと言うのと、判例ベースで書かれていて試験で使いやすいです。

法学部や法科大学院に入ったからには、履修科目の百選は買うことをオススメします。判例学習は法律学習の基本のキです。


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