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(閲覧注意)【解説】令和5年司法試験刑法

【注意】
本noteは、令和5年司法試験刑法の試験日後に記載したものです。

したがって、本noteが発表されたのは予備校の解答出題趣旨採点実感が発表される前です。

もっとも、本noteの内容はその発表後にも齟齬がなかったため、そのまま記載しております。

また、基本的概念から全て解説しており、テクニックに頼らなくても解けるということがわかると思います。


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設問1 特殊詐欺の実行の着手時期の問題。

小問(1) 「実行の着手」の一般的見解からの説明

実質的客観説から説明することが求められる。

すなわち、①構成要件的結果発生の現実的危険性、及び②構成要件該当行為に対する密接性という2つの観点から検討することが第1に考えられる。

(なお、樋口亮介教授らが提唱する進捗度説による総合考慮型の検討をすることも妨げられないが、通説化してはおらず、適切に当てはめるのが難しい。
したがって、通説である実質的客観説で検討するのが望ましい。
(ちなみに、①に②の形式的観点を併せて検討していることから、上記立場を折衷説と呼ぶこともある))

当てはめにおいては、詐欺罪の実行の着手に関する最判H30.3.22を踏まえて検討することが求められる。

最判H30.3.22
本件における,上記(1)イ記載の各文言は,警察官を装って被害者に対して直接述べられたものであって,預金を下ろして現金化する必要があるとの嘘(1回目の電話),前日の詐欺の被害金を取り戻すためには被害者が警察に協力する必要があるとの嘘(1回目の電話),これから間もなく警察官が被害者宅を訪問するとの嘘(2回目の電話)を含むものである。上記認定事実によれば,これらの嘘(以下「本件嘘」という。)を述べた行為は,被害者をして,本件嘘が真実であると誤信させることによって,あらかじめ現金を被害者宅に移動させた上で,後に被害者宅を訪問して警察官を装って現金の交付を求める予定であった被告人に対して現金を交付させるための計画の一環として行われたものであり,本件嘘の内容は,その犯行計画上,被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであったと認められる。そして,このように段階を踏んで嘘を重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において述べられた本件嘘には,預金口座から現金を下ろして被害者宅に移動させることを求める趣旨の文言や,間もなく警察官が被害者宅を訪問することを予告する文言といった,被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれており,既に100万円の詐欺被害に遭っていた被害者に対し,本件嘘を真実であると誤信させることは,被害者において,間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえる。このような事実関係の下においては,本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において,被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手があったと認められる。

最判平成30年3月22日刑集72巻1号82頁

上記判例においては、家の近くで逮捕されている事案であり、嘘を述べた時点において実行の着手が認められているが、本件では家に行ってインターホンを押すところまで行っているから、より実行の着手が認められやすいような事案である。

①現実的危険性判断からは、本件犯行計画においては、欺罔行為を行なって錯誤に陥らせれることによって、占有移転(現金交付)の現実的危険性が高まることが指摘できる。

②形式的観点からは、詐欺罪(刑法246条1項)の文言上(「人を欺いて財物を交付させた者は…」)、欺罔行為(「欺いて」)と受交付行為(交付させたもの)が一体とは考えられておらず、交付文言が含まれていない欺罔行為も「人を欺」く行為であり、独立に実行行為本体であると考えることができる。

あるいは、交付を求める文言が含まれている欺罔行為自体が実行行為本体であり、上記事例の嘘は実行行為本体ではなく実行行為に密接なものとして実行の着手が認められるとの説明も考えられる

いずれで説明しても、問題ない。論理性や表現力があれば評価される。

また、他の説明でも評価され得よう。

小問(2)実行の着手時期の具体的特定

上記判例では、

本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において,被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手があった

と、「一連のものとして」と具体的な実行の着手時期をぼかしているので問題文の①〜⑤のどの時点で実行の着手が認められるかは定かではありません。

理由によってはいずれで認めても問題ないと思われます。正解はありません。

一部でこれが正解だ!という争いが起こるかもしれませんが、正解があるという考え方が間違っています

⑥だと判例と齟齬が発生しますが、これも理屈としては全然あり得るので合格レベルの論述になり得ます。


小問2 ①共謀の射程、②詐欺と強盗の構成要件的重なり合い、③因果関係、強盗の機会


1 共謀の射程

共同正犯の要件は、①共謀、及び②共謀に基づく実行行為である。

本件では、①共謀は問題なく認められるから簡単に認定すれば足る

問題は、甲は詐欺罪の共謀しかしていないのに、乙・丙が強盗を甲に無断で勝手に行なっていることである。したがって、共謀に基づく実行行為、すなわち、強盗に共謀との因果性が認められると言えるかが問題となる(いわゆる共謀の射程)。

甲は特殊詐欺の首謀者として乙丙に対して重要な動機づけを行なっており(甲が首謀しなければ乙丙が強盗を行うことはなく条件関係が認められる)、問題文で「縛った方が確実に現金を奪える」旨言っており新たな動機に基づくものではないし、同一の被害者Bから金銭を占有取得するという主要な点においては変わっていない。あくまで態様が欺罔行為から暴行に代わっているだけである。

これらの点に着目すれば共謀の射程を肯定することが認められる

ただし、強盗が詐欺罪とは異なり保護法益に財産のほか身体・生命の自由が副次的に加わっておりこれらの重要性に着目すれば、共謀の射程を否定することも可能であろう。

(例えば、強盗ではなく、窃盗をおこなった場合、詐欺罪と同じ交付罪である恐喝罪をおこなった場合に因果性が認められるか、と思考実験を行うことが役に立つでしょう。)

いずれにせよ、取った結論が合否を左右するわけではないから、そこは安心してほしい。

2 詐欺と強盗の構成要件的重なり合い

因果性を認めた場合、甲には詐欺の故意しかないのに、実際に行われた犯罪は強盗であり、甲の主観と客観が異なっており錯誤が認められる

詐欺と強盗に構成要件的重なり合いが認められる場合は、甲に詐欺罪の共同正犯が認められる。
まず、結論はいろいろ考えられる。いずれの回答でも問題ないが、構成要件の重なり合いが認められないor詐欺罪の限度で重なっているが無難だろうか。

②〜⑤は詐欺と強盗それ自体は重なってないが、詐欺と窃盗、強盗と窃盗が重なっているとすれば、詐欺と強盗は、中間概念である窃盗の限度で重なっているという考え方であり、あり得る考え方として書いておいた。

①詐欺罪は強盗罪との構成要件の重なり合いが認められ、詐欺罪が成立する。
②詐欺罪は強盗罪と、窃盗罪の限度で重なっており、窃盗罪の限度で成立する。
③詐欺罪は強盗罪と、占有離脱物等横領罪の限度で重なっており、占有離脱物横領罪が成立する。
④詐欺罪と強盗罪は、恐喝罪の限度で重なっており、恐喝罪が成立する。
⑤詐欺罪と強盗罪は、構成要件の重なり合いが認めらない。甲は無罪。

構成要件の重なり合いは保護法益と行為態様に着目すべきである。

①保護法益について

強盗には身体・生命という保護法益が詐欺罪にない加わっているが、財産という保護法益は重なっている。

また、「財産」の中身について、窃盗罪を思い起こしてほしいが、窃盗・詐欺・強盗・恐喝の占有移転罪は、所有権及び占有自体を保護している

強盗及び詐欺罪は、占有及び所有権を侵害する犯罪である。

したがって、保護法益の重なり合い

②行為態様について

行為態様は、強盗と詐欺罪は、暴行・脅迫と欺罔行為という違いはあるが、占有移転行為という点では同じである。

ただし、詐欺罪には欺罔行為により相手方から交付を受けるという交付罪であるが、強盗は暴行・脅迫により相手方から強制的に占有移転を行う奪取罪(盗取罪ともいう)であり、強盗罪には欺罔行為及び受交付行為は含まれていない。したがって、行為態様が重なってないようにも思える

(強盗と窃盗は重なり合いをストレートに肯定できるが、詐欺は欺罔という特殊な行為が入っているのでストレートに肯定するのを憚られる。)

この点をどのように評価するかが分かれ道である。

詐欺罪の保護法益はあくまで財産(占有・所有)であり、財産処分決定の自由は詐欺罪の直接の保護法益には含まれておらず欺罔行為の有無は単なる行為態様として規定しているに過ぎないと考えれば、この違いを無視して行為態様が重なっているということができるし、詐欺罪の欺罔行為→錯誤→交付という行為類型が独自なものであると考えれば、行為態様は重なっていないと考えることができる。

いずれにせよ採点評価の対象になろう。

前述したように、窃盗罪等の限度で重なっているとすることもあり得る

③共通構成要件の理論による補強

強盗と詐欺を包括する共通構成要件を観念できるか。

先ほど見たように保護法益と行為態様のそれぞれの共通項を括り出せば
「相手方の真意に反して占有を移転する」
という共通構成要件が観念できる。

このような共通構成要件を重なり合いの積極理由として補強的に使用することも考えられるだろう。

3 (強盗の機会)、因果関係

Bは強盗犯からロープで体を、口を粘着テープで縛り上げられた。

しかし、2時間ほど後に偶然娘CがB宅を訪れ、ロープと粘着テープを外してもらい、Cが座っておくように言ったがBが動いて転倒したため、頭部に全治2週間の打撲傷を負った。

①検討対象

まず、強盗の機会を論ずるかどうか迷う。

原因行為自体は緊縛行為という強盗の手段であり、強盗の手段が原因行為に含まれることは争いがないから、問題ないとも思えるからである。

ただ、娘Cという緊縛を一度解いており強盗の機会性が遮断されたような気がしなくもないので一応検討しておいてもいい気がする。

②強盗の機会

Bの負傷原因となった転倒は、強盗の手段たる暴行であるロープの緊縛から生じている。
この場合、手段たる暴行から地消結果が生じた場合は、強盗の機会であると問題なく認められると思われそうである。

しかし、一度Cが緊縛を解いており、座っているように指示しているため、強盗の機会性が遮断されたのではないかとも思われる

論ずるかどうかで迷う次第である。

③因果関係

Bの負傷は、Bの行為が介在しているので、因果関係が問題となる。

もっとも、ロープの緊縛で足がふらついてたことによる転倒であって一種の直接実現類型ともいえ、著しい過失行為とも言えないので、危険の現実化は認められるであろう。

設問3 "偽計による逮捕妨害"


設問1、2は論ずることが多く、設問3では時間が足りなかった人も少なくないであろう。

ただ、短い文章でも要点を書くことは可能である。以下の要素が入っていれば足りる。他の理屈による可能性もあり得る。

業務として保護される「公務」

逮捕行為など、類型的に強制力を行使する権力的公務は、自力で威力を排除できるから業務として保護する必要はない。

この論理によると、事実6での妨害された行為は逮捕という強制力を行使する権力的公務であり、これは業務として保護されないから威力業務妨害罪の成立を否定することができる。

また、事実7の虚偽通報は、通報時点で警察官たちが逮捕に着手しているとも評価でき逮捕自体を妨害されてはいるものの、妨害された業務を抽象的に把握し、警察という組織体の虚偽通報によって「他にできたはずであろう業務」が妨害されたと考えれば、強制力を行使する権力公務とは言えず、偽計業務妨害罪を肯定することができるだろう。

また、威力業務妨害罪については、自力排除が可能であり強制力を行使する権力的公務は保護されないが、偽計に対しては脆弱で自力排除が不可能であるから、偽計業務妨害罪では強制力を行使する権力的公務も保護されるとの考え方もあり得よう。

この考え方では、最初の述べた考え方とは異なり、客体である「業務」を逮捕と補足して業務妨害罪の成立を認められる。

(雑感:実際上は、犯人隠避罪で捕捉できるのではないか?)


🔹終わりに


解説は以上です。

他年度の問題でも問われている重要な事項を多数含みますので、分からないところがあれば繰り返し読み返してください。

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