「無効」と「取消し」って何が違うの?
【前提・コンテクスト】
民法では契約や法律行為が適正に成立しているかどうかで、
効力が生じたり、生じなかったりします。
ここでよく登場する概念が
「無効(むこう)」と「取消し(とりけし)」
です。
両者とも最終的には
契約・行為の効力が否定されることがありますが、
意味や効果が異なります。
1. 無効とは
定義・イメージ
最初から効力がない状態を指します。契約を結んだつもりでも、法律上はまったく効力が生じていない、ということです。
例えて言えば、「そもそも試合開始の笛が鳴っていなかったので、ゲームは存在していなかったようなもの」です。
典型例
公序良俗(こうじょりょうぞく)違反(民法90条)
社会の秩序や善良の風俗(公の秩序や道徳)に反する契約は、最初から無効になります。意思表示が存在しない場合
まったく契約する意思がなかったのに、形式上だけ契約書に署名押印してしまった、など。
法的効果
誰が見ても、最初から効力がないので、後から取り消す手続きは必要ない
そもそも契約が存在していない(効力がない)という扱いです。
2. 取消しとは
定義・イメージ
表面上はいったん有効に成立しているが、後から特定の理由(瑕疵=かし)によって取り消すことができる状態を指します。
「試合は始まったものの、あとで重大な反則が判明し、試合結果が取り消される」といったイメージに近いです。
典型例
制限行為能力者の行為(未成年、成年被後見人など:民法5条以下)
未成年者が法定代理人(親など)の同意を得ずに契約をしてしまった場合など、本人や法定代理人はあとからその契約を取り消せます。詐欺や強迫による意思表示(民法96条)
人をだましたり脅したりして結ばれた契約は、被害者が取り消すことができます。錯誤(民法95条)
勘違いによって契約を結んだ場合も、一定の要件を満たせば取り消せることがあります。
法的効果
取り消す前までは 一応有効 に扱われます。
取り消すと、最初にさかのぼって効力がなくなる(遡及効=そきゅうこう) ので、無効と同じように「はじめからなかった」状態に戻ります。
ただし第三者が絡む場合などは、取消権の行使のタイミングや要件で複雑な争いになることがあります。
3. 無効と取消しの違い(まとめ)
効力が生じるかどうか
無効:最初から効力が生じない
取消し:いったん有効に成立しているが、取り消されると遡って無効になる
誰が行うか
無効:そもそも効力がないため、誰かが「無効です」と言うまでもなく無効
取消し:取消権をもつ人(未成年者本人、詐欺の被害者など)が「取り消す」という手続きが必要
第三者との関係
無効:効力がないので、原則として第三者との間でも最初から契約なし
取消し:取り消すまでは有効なので、取り消し前に第三者が利害関係を取得した場合、調整が必要になることがある
ワンポイント
無効は最初から“なかったもの”
取消しは“一度はあったことになっているが、取り消すと初めからなかったことになる”
簡単に言えば、**「無効は開始時点で存在せず、取消しは一度存在したけどあとで消せる」**という点が大きな違いです。
【参考条文(日本法)】
民法90条(公序良俗)
e-Gov法令検索民法95条(錯誤)
民法96条(詐欺又は強迫)
民法5条以下(制限行為能力者)
以上が、無効と取消しの大まかな違いです。法学の学習を進めるうえで、どのような状況なら「最初から効力がない(無効)」とされるのか、どのような瑕疵があれば「取り消せる」のか、具体的な判例や事例でしっかり押さえると理解が深まります。