五十音短歌2

Amazonの箱を収納ボックスにしてる以外はていねいな暮らし


意地悪な魔法使いにかけられた呪いが解けてアコギを捨てた


裏庭に生えた巨大なチンアナゴは母親の声で俺の名を呼ぶ


液晶のひびを指紋がなぞるたび夢の記憶が削られていく


甥っ子の写真をLINEの口実にしてきた誕生日の父親よ


蚊柱は歩きスマホを見咎めて顔中の穴という穴を刺す


義務めいた入浴を終えリンスなど使ってなるものかと呟いた


曇り空は半袖の僕を戒める 秋晴れもまだ見ていないのに


珪藻土マットは普通にカビますよ 信じてください 信じてください


こんな時間に寝ても明日は来ないけど少しでも今日を減らしたくって


白湯を飲む ぬるま湯でなく白湯なのだ おれは今情報を飲んでいる


獅子舞はねばつく汁を纏いつつ私だけのため踊り続けた


砂を踏む感触はやけに懐かしく君とは違う声に呼ばれた


背もたれはギシギシ鳴いておれがまだインターネットではないと伝える


側転をアイデンティティとすることが可能であった来し方の日々


旦那とは言えない人と旦那には言えない言葉で別れた夕べ


父親は気をつけている 思い出が私の道を塞がないよう


爪先は強い臭いを放ちつつ誇らしそうに伸び伸びていた


電線は邪魔だし星座は知らんけど首が痛くなるまでは居よう


ところてん 濁ったつゆに浸かりつつ澄んだその身を輝かすもの


何も無い おれは煙を吐きながら未来のことを考えていない


煮物とかたぶん一生作れない レトルトカレーを紙皿に注ぐ


脱ぎ捨てた靴下などがそうめんの袋の上で蠢いている


根の下は空想の的となりながら慎ましく身をうずめ続ける


蚤は死ぬ前に全ての足先を大儀そうに開いてみせた


背景になってく夜に抗ったイヤホンもやはり闇に馴染んで


久しぶり ごめんねずっとそこに居てさ 変わったねえ 指輪似合ってるよ


ふうせんの紐を握ってた夢から覚めてあなたと指を絡めた


屁は臭くしかし屁をした覚えなど無くておのれの狂いを悟る


煩悩は一柱ずつ丁寧に職人の手で作られています


膜のようなものが閊えているせいで痛みを伝えることができない


密室にハンチングを置き探偵は普通の女の子に戻った


虫干しが無意味だと知ってはいるけどやりたいけど結局面倒で


目配せの意味を知りたい おれの居ない世界でふたり交わっている


餅をもそもそと食べており諸々の問題は黙殺しています


辞めた部の同期とすれ違う時に挙げた手の指の先の冷たさ


YouTubeショートで釣るな 真っ当におてんとう様の下で生きろ


寄る辺とは今、ここであり望むらくは貴方の掌でもあるのです


卵白を捨てずにチャッとスープとか全然作れる側のヒトなのに


リビングで赤黒く酔う父親の右手に焼酎左手に猫


ルビを振る程でもなく開いても読み辛いことばで囁いて


レジロックの都市伝説を得意げに披露した遠視メガネの彼


ろうそくを去年の蝋の上に置く 子らは花火を瞳に照らす


輪になって眠ろう ふたりでその中に同じかたちを思い浮かべて

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