三輪車

低く、ゆっくりと、重奏するように。2022年7月14日結成の3人組半批評集団。

三輪車

低く、ゆっくりと、重奏するように。2022年7月14日結成の3人組半批評集団。

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半批評宣言──書くこと、それ自体へ

Text by: たくにゃん  7月の3連休初日。日々の仕事を頑張っている自分を労ってそれからの日々もまた頑張っていくため、貯金を切り崩して湯河原にある島崎藤村ゆかりの旅館に泊まった。  夕食前の内風呂、露天風呂に続き、夕食後に半露天風呂に入ったときのことだった。  浴槽から出て、縁側のようなスペースに寝転がって外気浴を開始した私は天啓にうたれた。  「半露天風呂ならぬ、半批評で良いじゃないか」と──。  遡ること丸9年。2013年7月25日、本誌メンバー3人が受講生とし

    • 独りよがりの感想 6月

      独りよがりの感想1:『これやこの』/サンキュータツオ  「これやこの」は、喜多八師匠の訃報を受けて、左談次師匠がツィートした2篇の和歌のうち一つからとっている。  表題作は、タツオ氏がシブラクのキュレーターとして舞台の裏と表を行き来しながら、芸人としての生を全うする2人の師匠の背中を追った渾身のエッセイだ。死であるのか、生き様であるのか、安易に悲しむこともできず、出会うことの意味がずっしりと問われているような内容がその他にも綴られている。その他と表現することも本来は全く

      • 2024年5月6日、伝説の「吉笑祭」昼 立川吉笑独演会~CD収録スペシャル~

         心臓が早鐘を打ち、血液が体中を駆け巡る。私の体を前へ前へと押し出していき、叫びたくなるような高揚感。叩きのめすような力とは違う、内側から湧き上がる力を語りのリズムが引き出し、観客を巻き込む立川吉笑の落語。2024年5月6日の吉笑祭は、昼夜にわたってその可能性が試された、そう思っている。  2023年の真打トライアルにて、真打昇進が内定し、2025年に真打昇進予定。二ツ目としてのラストイヤーの吉笑祭では、CD収録のため6作品が連続して演じられた。まるで音楽ライブを収録するか

        • ナツノカモさんの「カンガエルカモ」で感じたこと、考えたこと

           高円寺hacoでのナツノカモさんの落語。相性のいい日本酒の、甘すぎず、香り高く、キレが良く、スッと喉の奥に落ちていき、体がじんわりと温かくなっていく、そんな感覚が思い出されるようで、気持ちが柔らかくほぐれていく。声に誘われて呼び覚まされる落語世界は、優しくて、どこか懐かしくて、よく知っているような気がしながらも決して自分の記憶の中の具体物ではなく、やっぱり新しいものなんだ、新しい出会いなんだと分かる。  2023年の年末、初めてうかがった「カンガエルカモ」で聴いた『もうこ

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        半批評宣言──書くこと、それ自体へ

          小春志×吉笑 マゴデシ寄席プレミアム

           2021年立川吉笑の「三題噺百景」にて、決して十分には洗練されていないながらも作品が立ち上がるという現場に居合わせ、その熱意の虜になったとき、「吉笑を入り口に立川流という伝統を遡上する形で談志を経験する」と私は述べた。いまだ談志が世に与えた衝撃を生々しく経験することはできていないものの、それでもなお、談志の弟子の中でも四天王とよばれる、志の輔、談春、志らく、談笑の落語に触れながら、マゴデシと呼ばれる彼らの弟子世代が「私たちの立川流」だと痛感する。2024年2月28日のマゴデ

          小春志×吉笑 マゴデシ寄席プレミアム

          ソーゾーシー2024 in高円寺演芸まつり感想

           若手落語家・浪曲師の瀧川鯉八、春風亭昇々、立川吉笑、玉川太福の4人による創作話芸ユニットソーゾーシー。  ネタおろし公演の場合には、誰もが初めて聴く話だから、全く落語の予備知識がなくても楽しめるのが有難い。本公演は、春風亭昇々師匠に代わって、弟弟子の春風亭昇羊さんが出演。  しかし、週1日しか出てない勤務先での仕事が終わらず、どうにも開演に間に合わなかった。高円寺から駅に向かうときに思い出した感覚は、学校の遅刻。「行けば楽しい」と分かっていながらも気後れしてしまうから、さ

          ソーゾーシー2024 in高円寺演芸まつり感想

          編集後記ダイジェスト

           三輪車としての初めての同人誌では、二つの部門を設けて執筆を行い、原稿を持ち寄りました。「家族」をテーマとした課題文と自由創作(エッセイ、批評、ジャンルを問わず)です。全く別々の時間を過ごしてきた三人ではありますが、出来上がった内容には貫通する「何か」があったように思われ、それを踏まえた並びとなっています。可能ならば最初から通読していただけると嬉しいです。 aより  テーマについて、経緯は忘れたけど、私が「師弟関係」に興味があると言い出したことがきっかけだったと聞いて思い

          編集後記ダイジェスト

          ちょっと前の『三題噺百景』より 立川吉笑さんの三題噺レビュー

          text by :a   私が立川流の洗礼を受けたのは、談志でもなく、志の輔でもなく、談笑の弟子吉笑であった。私自身が、落語ビギナーということもあるが、私にとっての立川流は吉笑が入り口で、伝統という川を遡上する形で談志を経験している。私は吉笑の「今」と「これから」を「リアタイ」で体験できることを大変うれしく思うとともに、彼の綴る落語論から明日の落語家、落語界を期待している。  吉笑に魅了されたのは、2021年8月9日「三題噺百景」楽日の『そうたいせい理論』がきっかけである

          ちょっと前の『三題噺百景』より 立川吉笑さんの三題噺レビュー

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』エピローグ

          Text by:たくにゃん コロナにかかった後のいまここ 2022年11月、初めて新型コロナウイルス感染症に罹患した。妻が発症した2日後にうつった形だ。そう、私は第十六話で触れたカノジョと3年ほど前に、運よく結婚できた。今では、自分の中に妹・沙也香だけではなく、妻も同居しているような感覚がある。でも、妹は自分の外にはあまりいないし、自分の中の妻はあまりしゃべることはない。  結婚がきっかけとなり(理由ではない)、両親とは事実上の絶縁をした。今回、父親の過干渉や母親の精神障害

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』エピローグ

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第二十話

          Text by:たくにゃん 自分の声を聴く 介護の専門新聞の仕事で、これまでドキュメンタリー映画などメディアの中だけで接してきた障害福祉の現場について、たくさん取材するようになった。重症心身障害児(者)については、「あゆちゃんち」にお邪魔したり、知的障害者施設において多少は接することができた。また、児玉真美さんの新刊『殺す親 殺させられる親』の書評を担当するなど、自分の中心的な関心テーマについて仕事として書くことを経験できたことは僥倖だった。  ただ、さまざまな現場を取材し

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第二十話

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十九話

          Text by:たくにゃん 思想家の声を聴く 2020年3月16日、横浜地方裁判所は植松聖被告に求刑通り死刑を言い渡した。弁護人は同月27日に控訴。しかし、植松被告が控訴期限の同月30日にそれを取り下げた。初公判からわずか83日で植松聖の死刑が確定した。被告は公判中から、「どんな判決が出ても控訴しない」と宣言していた。  私は16日に判決後の2つの記者会見へ行ったが、そこで初めて、植松聖と面会や手紙のやり取りを続けてきた、和光大学名誉教授で思想家の最首悟さんを生で見た。最首

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十九話

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十八話

          Text by:たくにゃん 被告の声を聴く 2019年8月に、3年3カ月お世話になった編プロを退社した。元々、次へのステップと考えて入社していたし、代表からも給料が上がる保証はないから3年後には一人前になるんだぞと言われていた。そこで3年が経とうかという頃から転職活動を始め、無事に転職先が決まったので円満退社することができた。  肝心の転職先は、業界紙(専門新聞)や月刊誌を発行している創立50年の小さな新聞社だ。配属は、介護保険サービス——高齢者に対する介護——を提供する事

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十八話

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十七話

          Text by:たくにゃん 「半固体」の声を聴く 2019年5月に発刊した『アラザル』12号には、重症心身障害児(者)に関する長文批評を、「私」性を排して書き下ろした。取り上げた作品・文献・事件等は多岐に渡り、本連載で言及してきた『夜明け前の子どもたち』や『亜由未が教えてくれたこと』、『重い障害を生きるということ』、相模原障害者殺傷事件などにも触れた。  その中で、本連載でまだ言及していない作品の一つが、ドキュメンタリー映画『わたしの季節』(小林茂監督/2004年)である。

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十七話

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十六話

          Text by:たくにゃん 先輩方の声を聴く 『neoneo』9号の発刊後、役割を終えた私は『neoneo』編集室を離れた。すでに『スピラレ』の同人は事実上の解散をしていて、私は批評活動の新たな足場を探していた。そんな私の状況を知って、『スピラレ』の兄貴分に当たる『アラザル』同人の先輩方が仲間入りの声掛けをしてくださった。私は喜んで加入させていただいた。佐々木先生の講座が開講された時期としては5年ほど先駆けており、憧れの存在だった先輩方とお近づきになり、さらなる知見を吸収し

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十六話

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十五話

          Text by:たくにゃん 「あゆちゃんち」の声を聴く こうして振り返ると、2017年は前年に起こった相模原障害者殺傷事件の影響もあってか、重症心身障害児(者)に関する映像作品や書籍が最も充実した一年だった。その極めつけが、NHKのドキュメンタリー番組『亜由未が教えてくれたこと“障害を生きる”妹と家族の8800日』だ。制作者であるNHK青森放送局のディレクターで重症心身障害児(者)の妹を持つ坂川裕野さん(当時26~27歳)が、妹の亜由未さん(当時23歳)の地域自立生活にカメ

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十五話

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十四話

          Text by:たくにゃん 「障害福祉の母」の声を聴く 糸賀一雄が「障害福祉の父」ならば、北浦雅子は「障害福祉の母」かもしれない。2017年9月に出版された『重い障がい児に導かれて──重症児の母、北浦雅子の足跡』(著:福田雅文/中央法規出版)を通して、私は北浦雅子の存在を知った。著者によれば、北浦は第三話で紹介した小林提樹と草野熊吉、そして糸賀一雄と並ぶ重症心身障害児(者)福祉の4人の先達者の1人という位置づけだった。  北浦は、戦後の福岡で重症心身障害児(者)の次男を夫と

          『偏心――重症心身障害児(者)の妹・イン・ザ・ダイアローグ』第十四話