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彼女と彼
よく人のことを犬みたいとか、猫みたいとか違うものに喩えて表現する。人間観察が好きな私はというと、カレーで人を喩える。変だとか言われるけれど、それが一番しっくりくるのだから仕方ない。甘口な人は子供に好かれやすくて、辛口の人は大人っぽいみたいな。
例えば面倒見がよくさわやかで、みんなから頼りにされているバイトの山下先輩は、夏野菜カレー中辛、隠し味にはカルダモンスパイスとチャツネ。最近入ってきた口数の少ない後藤くんは、辛口カレーに隠し味はココアパウダーと生姜。自分からはあまり喋らないけど人嫌いなわけじゃなくてしっかりしている。
「・・・なんすか、それ。人をカレーで喩えるって意味わからないです。」
どうやら後藤くんは私のカレー性格診断が気に入らないらしい。いつもの仏頂面が少し怪訝そうに歪んでいる。
「後藤くんはまだポモドーロに入ったばかりだし、みんなのこと知らないからね。そのうち分かるよ。うんうん。」
「そういう問題じゃないと思います。あ、もうすぐ休憩終わりっすね。一服だけしてきます。」
後藤は喫煙所でタバコを咥えながら先程の彼女の話すことを考えていた。
相澤先輩はかなり変わっている。人の事をカレーで喩えるなんて全く意味がわからない。彼女の頭はきっとみそではなくカレールーが詰まっているに違いない。
そもそも後藤は彼女の喩えの根本から気に入っていない。彼女の喩える後藤は、あくまでバイトの後輩という一面に過ぎないからだ。
俺は別にしっかりなんてしていない。ただただ男としてよく見られたくて頑張っているだけなんだ。
まだ「本当の自分」をバイト先の喫茶店ポモドーロで演じることができていないもどかしさが彼を苛立たせる。
となると相澤先輩はどうなのだろうか。俺が見ている相澤先輩はバイトの中での先輩なのだろうか。バイト以外の相澤先輩はどんな人なのだろうか?そう考えると俺は先輩の事を何も知らない。唯一分かるのは、
相澤美咲はカレーが好き。
後藤はタバコを吸い終え休憩室に戻ると、大きく伸びをしていた相澤に言う。
「相澤先輩、今度カレー、食べに行きません?」
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