見出し画像

母の終い支度

来月のスケジュール帳をめくりながら、11月14日は母の誕生日だったことを思い出した。母は存命であれば今年95歳。他界してからちょうど30年になる。

母にはもともと持病があったが、63歳の時に別の病気が見つかった。何も手だてを講じなければ、余命1年と宣告された。

医師から治療方針を示されたが、体力的に持たないと考えた母は、そのまま静かに暮らすことを選択する。

しばらくして、母は近くに住む妹(私の叔母)に手伝ってもらいながら、身辺整理を始めた。

母は良い品を長く大切に使う人で、洋服タンスにはお洒落なワンピースやコート類、スカーフやアクセサリー、鞄などが詰め込まれていた。

整理には2ヶ月位かかっただろうか。母はタンスの整理をしながら、お世話になった人々に形見分けを遺し、普段着などを除いて不要品は全て処分していった。

母の妹や弟のお嫁さんには、ハンドバッグやアクセサリー類。私には真珠のネックレスとイヤリングを遺してくれた。私はお祝いの席などで、今も大切に身に付けている。

あれから30年。当時の母の年齢に私も近くなってきて、母の強さをしみじみ思う。
告知を受けて自分で治療方針を決め、心身の辛さをほとんど口にしなかった母。残された者に負担をかけぬよう、身辺整理をして旅立っていった。
今更ながら見事な終い支度だったと思う。

母には頭が上がらない。
これから先、私が困難に出くわした時には、母の姿勢が私の指針になってくれると思う。

母の誕生日を前に、改めてそう感じた。