自分も知らない自分に出会う
想像していなかった自分を発見したのは思い返せば2019年のことだった。
私は地味で真面目な日本生まれの女であり、大学を卒業後会社員となったごく普通な人間である。休日は読書や映画などインドア系で楽しむことが好きだった。ほらもう普通。
そんな中、数少ない友人からフェスに誘われ、フェスとはなんだろうと思いながらもTPOに合わせた服装をしなければと真面目に思いながらフェスの服装を調べたことを覚えている。
6月の初夏のころ、屋内で行われたフェスに初参加した私はその熱気に気圧されるばかりだった。
暗い空間にスモークが焚かれ、ステージの前には柵がいくつか設けられており、たくさんの人がひしめき合っていた。
ステージにバンドメンバー達が出てくると会場にいる人間達の熱気が高まり、最初の音に集中する。照明が暗くなり、ステージにスポットライトが当たって最初のメロディが鳴った瞬間、観客の喜びの爆発が始まった。
ドラマや映画で観るような、わー!という効果音が目の前に繰り広げられている。私は曲を聞きながらというよりも音を浴びるように突っ立っていた。
フェスは色んなバンドのグループが出演する音楽のイベントで、お目当てのグループが演奏する前には前方のエリアの取り合いになる。
私はフェス初心者ということもあり、すべて後方のほうで見ていた。
最初突っ立っていただけだったのだが、いくつかのバンドを聴いてみて、周りの人たちにあわせて踊ったり、掛け声を少し叫んだりしてみた。
踊って叫ぶって日常生活ではしたことがない。
踊るなんて義務教育のとき以来ではないだろうか。
でもこの空間では踊ったり叫んだりすることが全く違和感がないことに安心した。
徐々に普段の自分とは違う自分がいるなと感じはじめた。
フェスの後半に、女性グループが出演して目を奪われた。かわいい、と思った。と同時に、かっこいいと思った。目が釘付けになるという経験をこのときに初めてした気がする。
めちゃくちゃ汗を滴らせながら笑顔で激しく踊り歌う彼女たちに目が離せなかった。
見様見真似で踊って、周りと一緒に叫んだ。
その時、普段の自分はどこにもいなかった。
周りにどう見られるか気にして控えめにする自分も、嫌われないように努力する自分も、感情を抑えてしまう自分も、いなくなった。
ライブってこんなに楽しいんだ、この瞬間を誰も気にせずに自分をさらけ出せるのってこんなに楽しいんだと知って興奮した。
ライブが終わって放心状態で家に帰り、耳にのこる、ぼわんとした残響と身体の疲れが重かった。
それでもライブで味わった幸福感は今まで生きていて鮮やかに脳裏に残った。
ぼんやり毎日生きていた私が、その日見た女性グループバンドを愛し、ライブを生きがいにするようになったのだ。
インドアな自分がライブに出かけて踊り叫ぶようになるなんて全く思ってもみなかった。
もちろん今も真面目に会社員をしているけれど。
#想像していなかった未来