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#109 景観利益を守るという意識



 イタリアのスカンノ(scanno)という町に6日間滞在してきた。スカンノはローマから約185キロ、人口約1,800人の山間の美しい町だ。一歩町に入ると、複雑な路地が斜面に絡み合うように延びている。私は、そのほとんどを歩いてきた。家々の玄関や窓には花が飾られ、道を歩く者を楽しませてくれていた。
 古い建築物が建ち並ぶ路地を歩いていると、何箇所かで家の修復をやっていた。どの建物も今日まで何度も修復を重ねたことだろう。ところが、町並みはほとんど変化していないという。
 窓から見える山々や屋根の重なり、道を歩いているときに目に入る光景、それらも「景観」として捉えられていて、その「景観」を守るために条例が定められているとのことだ。住民は、自分たちの町の景観を守るために条例を守りながら家の修復をする。自分たちが得ることができる「景観利益」を自分たちで守っているのだ。企業も「自分たち」に含まれる。
 「景観利益」を得ることは権利であり、それを守ることは義務なのだという意識があるように思える。権利だ義務だというより、人が得ることができている「景観」を他者が阻害することを良しとしない。自分も他人も違和感をもつことはやれないという自然な空気があるように感じた。しかし、そこに窮屈さは伴わない。自然で軽やかな感覚・価値観だ。
 この空気感は親から子へと伝わり、次世代の社会的価値観が形成されていく。今日の日本では、なかなか考えられないものだろう。
 遠くイタリアにいて、日本の、神奈川の、海老名の、歴史的価値の高い相模国分寺跡隣接地に明和地所が建設しようとしている高層マンション、そして、住民による「景観」を守る運動(SKK)のことを思わざるを得なかった。

(23.10.6)


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